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第二話 強豪チームへの就任挨拶、歓迎されない乾いた拍手【CREDO 山門武志】

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掲載日:2018.11.26
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2015年4月
岩手県は東日本大震災の復興が沿岸を中心に進められており、未だ仮設住宅暮らしの方が大勢いるという報道がしきりになされていた。

仮設住宅の期限も設けられていることから、住宅再建、ライフライン復旧に向けて、岩手県内のホテルは連日工事関連の人で賑わっていた。
少しずつ沿岸地域でも再建するような動きも見え始めているのとは対照的に、いわて国体に向けて予算が削減されているスポーツ界ではなんとも言えない「地元開催国体」という目に見えぬプレッシャーが迫り寄っていた。

専修大学北上高校から歩いて1、2分ほど歩いたところに専修大学北上福祉教育専門学校(旧黒沢尻南高校)の二階建て体育館があり、そこを野田監督率いる専修大学北上高校(以下専北)卓球部は拠点としていた。

卓球台が体育館一面に10台以上並べられ、初めて入った際は面食らったほどだ。窓はもちろん、カーテンを閉め切った体育館には独特のこもった空気感と、ピンと張りつめたような雰囲気や緊迫感が漂っている、まさに強豪の練習場といった様子だ。
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不穏な空気、不安と緊張

午前9時
卓球部の部員たちには一切明かされないまま、県や監督の意向で粛々と手続きを終え国体のトレーナーに就任した僕は、監督とともに選手たちの前に立っていた。

突如入ってきた、見慣れない男。明らかにいつもと違う雰囲気に、部員たちには不安と緊張がはしる。

(誰だよ、あれ?)
(は?また訳分かんないトレーナー来たの?)
(かき乱されるの、嫌だな…)

「いいか、よく聞け。これからお前たちには国体に向けて、これまでと違ったアプローチでの強化も進めていく。それを担っていただける人をお呼びした。」

野田監督が大きく声をかけ、体育館の部員全員に注目を促して言った。
全員の視線が僕に集まったことを確認すると突然、野田監督から自己紹介をしてもらえますか?という視線が飛んで来た。
国体に向けて、これまでトレーナーという存在が卓球競技に関わらなかったわけではない。しかし、それらはほとんどが治療家としての役割を担っており、明らかに今回の狙いとは異なっていた。

また、卓球競技は古き良き体制が今も色濃く残っており、それをぶち壊すかのような新しい取り組みはきっといろんな選手たちの反発を招くだろうなぁと内心僕は戸惑っていた。
選手たちが僕を見る目は明らかに「最初の一声でどんなやつかを見極める」というような鋭い視線を向けていた。
トレーニングを教えるとなると、筋骨隆々でマッチョなボディビルダーのような風貌を想像しがちであるが、彼らの前に現れたのは、どこにでもいるようなスリムでひ弱そうな若造だから当然である。

(えぇ、こんな人がトレーニング教えるの?)

選手たちは一様に、絶望というか、落胆というか、とにかく厳しい失望した表情で、力なく僕を見つめていた。
しかしどうせそんな風に反応されるだろうなと、担当することを決めてから何度もイメージしていたので、選手たちの冷ややかな反応も(まぁそんなもんだよね)といった程度にしか感じておらず、想定の範囲内といったところで、特に落胆はしていなかった。

冷める者、戸惑う者、明るい者

「初めまして、山門武志です!この度、縁あってみんなのトレーニング指導を担当させてもらうトレーナーとして就任させてもらうことになりました。正直、僕の教えるトレーニングはキツイし、厳しいです。でも、それらは目標を叶える礎に必ずなるし、何よりも全ては“勝つ”ためにやっていきます!」

これから先の卓球界でできる限り新しいスポーツ医科学の知見を普及させ、一人でも多くの選手が潜在的な力を発揮できる手助けになれるよう、自分なりの「先導者やトレーナー像」をイメージして明るく挨拶をした。

僕は、なるべくこのチームの雰囲気を崩さないように、情熱を全面に出し、またこれまでやったことがない新しい強化法であっても、従来通りの技術練習同様に試合に勝つために実施する1つの要素に過ぎないことを強調した。

初めて会う選手の皆にモチベーションを高めてもらえるように、そしてこれからのトレーニングに意欲的に取り組んでもらえるように。

挨拶が終わり軽く頭を下げた僕に、少し遅れてパラパラと乾いたまばらな拍手が送られた。僕に対する戸惑い、気持ちの上での心理的ギャップがあることは明らかだった。

3年生と思われる最前列の選手の中には、無表情であからさまに冷めた目線を投げかける者もいた。
まだ入学したての1年生はよく状況を理解していないのだろうか、キョロキョロと周囲を伺い、上級生の様子を探っていた。

まだ高校生ではない選手もいて、その子はある意味自分が強くなれる可能性があればなんでもいいとばかりに妙に明るく拍手を送ってくれていたことはいまでも鮮明に覚えている。

  • 山門 武志(やまかど たけし)
    【経歴】
    東北大学陸上部(2012)
    国民体育大会 卓球岩手県代表選手団(2015~)
    バレーボール少年男子岩手県代表選手団(2017~)
    専修大学北上高校卓球部(2015~)
    専修大学北上高校女子サッカー部(2015~)
    一関修紅高校男子バレーボール部(2016~)
    盛岡大学付属高校硬式野球部(2017~)
    その他セミナー・講習会等多数

    2005年に最も苦手科目である英語を猛勉強し、奇跡的にアメリカの大学入学試験に合格し、東イリノイ大学に留学。語学力不足から度重なる挫折を繰り返しながらも無事帰国、更なる勉学のため仙台大学体育学部へ。国内最高難度レベルの日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー資格(JSPO-AT)を習得。その後岩手県へ移住し、2016年に起業し、株式会社CREDO設立。岩手県初のプライベートジムをオープンさせると同時に、アスリートたちへのサポート事業にも従事する。