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NSCAジャパン北関東・東北地域S&Cシンポジウム 現場で使える簡単なメンタルトレーニング#3 笠原 彰

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掲載日:2019.02.04
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2018年10月13日に作新学院大学にて行われた、特定非営利活動法人NSCAジャパン 北関東・東北地域S&Cシンポジウムにおける笠原 彰氏(M.S.,作新学院大学経営学部スポーツマネジメント学科教授)の講演をレポート!

TOPS 試合で必要とされる心理的なスキル

Test of Performance Strategies(TOPS)(Thomas, Murphy, & Hardy,1999;渡辺,2010)とは、簡単に言えば試合で必要とされる心理的なスキルのことで、つまりこれをマスターすれば試合で実力を発揮しやすくなるということです。


第1因子 目標設定
第2因子 認知的不安
第3因子 セルフトーク
第4因子 イメージ
第5因子 自動化


目標設定は非常に重要です。
例えば今日の試合の目標、県大会出場、ベスト8など、いろいろな目標がありますが、これはすべて「結果目標」であり結果に関する目標です。

結果目標の長所としては闘争心や気合が入りますが、弱点としては「あがり」やプレッシャーに弱くなります。なのでもともとあがり症の人は余計にプレッシャーがかかってしまいます。

そのため、試合開始直前や直後において「結果目標」というものは余計に緊張してしまうので危険です。試合開始直前や直後はそもそも緊張をしやすい状況なのでなおさらです。

ただ、逆を言えば多くの場合で試合の終盤は緊張が取れている。
そこで疲れていて心が折れそうなときや諦めそうなときに気合を入れるためには効果的です。
つまり結果目標は使い方を間違えなければ効果があるものです。

自分だけの個人的な目標、行動目標

行動目標というのは「試合中に必ずこれをする」というもので、姿勢を整えるとか口角を上げる等です。
行動目標と結果目標の何が違うかというと、行動目標は「確実にできる行動」を設定することです。確実にできなければ行動目標に意味はありません。「絶対勝つ」ですとか「一生懸命」などの四字熟語系やスローガン的なものは行動目標にはなりません。


行動目標のメリットは緊張を抑えられること。そのため試合開始直前や直後に有効です。
しかし逆に冷静になりすぎて気合や闘争心が落ちることがあるので、終盤は結果目標を活用します。

状況に合わせて結果目標と行動目標を使い分けることが重要です。


例えば野球の練習試合で、ネクストバッターズサークルでバッターボックスの近くに行ける場合、選手に結果目標と行動目標を聞きに行くと、結果目標として「センター前にヒットを打つ」、行動目標として「ボールを最後まで見る」等と教えてくれます。

バントならば行動目標として「膝を使う」など、こういったことを普段から意識させてメンタルテクニックを学んでいってもらいます。

多くの選手は結果目標しか知らないことが多いですが、大事なのは行動目標。
まずは結果目標と行動目標をマスターすることが大事です。

抑え込まずに置き換えて付け加える

先にも言いましたとおり、「ミスしたらどうしよう」、「負けたらどうしよう」などのマイナス思考をしてしまう場合も、行動目標に置き換えます。どうしても出てきてしまうマイナス思考を出すなというのも無理です。

なので、「失敗したらどうしよう」に「でも」を付け加えます。これをセットで繰り返していく習慣をつけていきます。
マイナス思考が出やすい人は試合前にヒマを持て余していることが多いです。試合に強い人は本番前にしっかりとやるべきことをやっているのです。


例えば試合前に音楽を聴きながら口ずさむ選手もいます。
もしかしたら単なるアップだけでは、アップしながらもマイナスなことを考えてしまうためにそれを防いでいるのかもしれません。
別のことを行うことでネガティブな思考をコントロールしているとも考えられます。一種のルーティーンです。

試合前の不安は多くの要素があります。それにどう対処するか。
これを専門用語で「コーピング」と呼びますが、最終的にはコーピングリストを作ります。
会場の環境や設備に対する不安や「遅刻したらどうしよう」などのあらゆる不安要素を書き出し、「こんなときはこうする」というコーピングリストを作成して対策や対処を決めておくことで試合前のネガティブな要素を抑えることができます。

ルーティーン

そもそもルーティーンとは日課や決まりきった事をいいますが、ある一定の行動を一定の手順でやることを示します。以前はイチロー選手、最近だと五郎丸選手が有名です。

ルーティーンの効果は集中力を高めると同時に、毎回一定の手順を一定のリズムでやるので雑念が出にくいというメリットがあります。

わずか数秒のルーティーンを完成させるのに何年も費やす選手もいます。ルーティーンを作るには非常に長い時間がかかりますので、今日作って明日完成するものではありません。ルーティーンは修正を加えて試行錯誤を繰り返して作り上げていくものです。

五郎丸選手もメンタルコーチに相談したそうですが、ルーティーン中にどうしても雑念が出てしまうことがあるそうです。
かといって「無心」や「何も考えない」という事は一番雑念が出てしまいますので、別の事を考えて雑念を抑えている。「何も考えない」というのはすでに別のことを考えてしまっていますので、別のことを考えるのがルーティーンのポイントと言えます。

自分自身に言い聞かせるセルフトークはいきなり本番ではできません。なので「セルフトーク集」を事前に作っておき、こういう場面はこういう言葉と決めておきます。

もし出てこなければアスリートの名言集のようなものを参考にしてもいいですし、友人にかける言葉として探してみても良いかと思います。

松岡修造氏のセルフトーク

おすすめなのは松岡修造氏。メンタルやスポーツ心理学に長けています。

松岡氏のセルフトークの一つとして「緊張してきた。よっしゃあ」というものがあります。緊張した事に関して歓迎すれば実力を発揮しやすくなるかもしれない。
実際にトップアスリートに緊張に関する証言を聞くと、「緊張しているから実力を発揮できる」、「緊張してきたから試合モードに入った」というように歓迎するような傾向もあります。

それに対して、あがり症の人は緊張を悪者扱いする。強がりでもいいので緊張を前向きに捉えることを習慣化する必要があります。

他には「いま ここ 修造」というセルフトークもあります。
「here&now」という、今ここに集中しているという有名な言葉をアレンジしたものです。

松岡修造氏のセルフトークの一例

・ミスをすることは悪いことじゃない。それは上達するのに必ず必要なもの
・反省はしろ!後悔はするな
・人の弱点を見つける天才よりも、人を褒める天才がいい
・勝ち負けなんか、ちっぽけなこと。大事なのは本気だったかどうかだ
・崖っぷちありがとう!最高だ
・人は勝ちを求める。しかし、勝ちだと思った時から全てがやり直しになる
・人が褒めてくれないのなら、自分で自分を思いっきり褒めればいい

過去のことを考えると後悔する、先のことを考えると不安になるので目の前に集中することが大事です。

イメージトレーニングに関して

試合を思い浮かべながら目を閉じて全く動かないという方法は通常あまり用いられず、軽く体を動かしながら行う「シャドウイメージ」という方法が用いられます。

素振りもイメージトレーニングです。
しかしこれも研究によると、実際のスイングスピードの5~7割ほどの速さで行ったほうが良いと言われています。
本来のスイングスピードだとイメージがしにくく、イメージトレーニングとしての素振りは少しゆっくりめが推奨されます。

最後に

栃木県で月に1回90分、メンタルトレーニング研究会というものを開催しています。
4~5年後に栃木県で国体があるので、それに向けてメンタルトレーニングの普及と発展を目的としています。

まだまだ非常に奥深い部分もありますが本日はこのあたりにさせて頂きます。
メンタル関連の書籍も何冊か出版しておりますので興味を持って頂けた方はぜひ手にとって頂ければ幸いです。