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その他アミノ酸やアミノ酸類縁物質~トリプトファン、チロシン~

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掲載日:2019.04.25
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この章では他のアミノ酸や、アミノ酸類縁物質について紹介していきます。

芳香族アミノ酸

構造の中に、「芳香族基」を持つアミノ酸があります。具体的にはトリプトファンやチロシン、フェニルアラニンです。ヒスチジンもその仲間に入ることがあります。英語ではAromaticAminoAcidとなるため、略してAAAと呼ばれます。

トリプトファン

まずはトリプトファンから行きましょう。トリプトファンはセロトニンやメラトニンの材料になるアミノ酸で、メラトニンの材料になることから、睡眠を深くする作用が期待されて、アメリカなどでは入眠剤として使用されてきました。実際に睡眠時無呼吸を改善したり、眠りにつくまでの時間が短くなったりという報告があります。(※101、※102)

セロトニンやメラトニンの材料ということは、運動の前に摂取するのは不向きだと思えます。
しかし意外にも600mgのトリプトファンを摂取することで、サイクルパフォーマンスが向上したという報告があります。(※103)

この作用機序は不明なのですが、トリプトファンを摂取することでアセト酢酸(ケトン体)が増え、脂質代謝が向上したという可能性も考えられます。(※104)
この研究では悪玉コレステロールが減り、TMAOも減ったとされています。TMAOはカルニチンの項で詳述しますが、カルニチンの代謝物質であり、動脈硬化を促進する可能性があるとされている物質です。
この害をトリプトファンが防ぐことができるかもしれないということになります。

また、トリプトファンを摂取することで細胞内カルシウムが増加し、酸素分圧の高い状態では骨髄における間葉系幹細胞の分化を促す可能性もあるようです。(※105)さらに筋タンパク合成を高める作用もあるようです。(※106、※107、※108)

また面白いことにミオスタチン遺伝子をトリプトファンが減らすという報告があります。(※109)
この研究ではタンパク質が不足した状態において、トリプトファンのサプリメンテーションを行うことにより、IGF-1とレプチン、フォリスタチンを増やし、mTORも活性化したということです。
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チロシン

チロシンはフェニルアラニンからつくられるため、必須アミノ酸ではありません。チロシンには水酸基があり、さまざまなタンパク質に取り込まれて「リン酸化」されることにより、タンパク質の機能を大きく変化させる作用を持っています。
これを「チロシンリン酸化」と呼び、シグナル伝達において重要な役割を果たします。

またチロシンはカテコールアミン(ドーパミンやアドレナリン、ノルアドレナリン)や甲状腺ホルモンの材料となります。またメラニン色素の材料でもあります。

カテコールアミンや甲状腺ホルモンの材料になるということは、「やる気」を出したり、トレーニング前に気合を入れたりするのに役立つと考えられます。実際にチロシンを摂取することにより、暑熱条件下におけるサイクリングのパフォーマンスが向上したという報告(※110)や、寒冷化における認知機能の低下を抑制したという報告(※111)、睡眠不足後の認知機能低下を抑制したという報告(※112)、特に短期間において認知機能が要求されるシチュエーションで効果を発揮するというレビュー(※113)などが存在します。

短期的な効果を求める場合はトレーニングの45分ほど前に2~3gを摂取するといいでしょう。
もっと長期的に「やる気」を出す効果を求める場合は、起床直後に1~2gを継続的に摂取するようにします。



※101: L-tryptophan in the treatment of impaired respiration in sleep. Bull Eur Physiopathol Respir. 1983 Nov-Dec; 19( 6): 625-9.

※102: Sleep induced by L-tryptophan. Effect of dosages within the normal dietary intake. J Nerv Ment Dis. 1979 Aug; 167( 8): 497-9.

※103: L-tryptophan supplementation can decrease fatigue perception during an aerobic exercise with supramaximal intercalated anaerobic bouts in young healthy men. Int J Neurosci. 2010 May; 120( 5): 319-27. doi: 10. 3109/ 00207450903389404.
※104: Metabolomic analysis of amino acid and fat metabolism in rats with L-tryptophan supplementation. Amino Acids. 2014 Dec; 46( 12): 2681-91. doi: 10. 1007/ s 00726-014-1823-y. Epub 2014 Aug 20.

※105: Aromatic amino acid activation of signaling pathways in bone marrow mesenchymal stem cells depends on oxygen tension. PLoS One. 2014 Apr 11; 9( 4): e 91108. doi: 10. 1371/ journal. pone. 0091108. eCollection 2014

※106: A role for tryptophan in regulation of protein synthesis in porcine muscle. J Nutr. 1988 Apr; 118( 4): 445-9.

※107: Effect of dietary tryptophan on muscle, liver and whole-body protein synthesis in weaned piglets: relationship to plasma insulin. Br J Nutr. 1991 Nov; 66( 3): 423-35.

※108: "Importance of serotonin (5-HT) and its precursor l-tryptophan forhomeostasis and function of skeletal muscle in rats. A morphological and endocrinological study." Acta histochemica 117. 3 (2015): 267-274.

※109: The aromatic amino acid tryptophan stimulates skeletal muscle IGF 1/ p 70 s 6 k/ mTor signaling in vivo and the expression of myogenic genes in vitro. Nutrition. 2015 Jul-Aug; 31( 7-8): 1018-24. doi: 10. 1016/ j. nut. 2015. 02. 011. Epub 2015 Mar 17.

※110: Oral tyrosine supplementation improves exercise capacity in the heat. Eur J Appl Physiol. 2011 Dec; 111( 12): 2941-50. doi: 10. 1007/ s 00421-011-1921-4. Epub 2011 Mar 25.

※111: Tyrosine supplementation mitigates working memory decrements duringcold exposure. Physiol Behav. 2007 Nov 23; 92( 4): 575-82. Epub 2007 May 22.

※112: The effects of tyrosine on cognitive performance during extended wakefulness. Aviat Space Environ Med. 1995 Apr; 66( 4): 313-9.

※113: Effect of tyrosine supplementation on clinical and healthy populations under stress or cognitive demands--A review. J Psychiatr Res. 2015 Nov; 70: 50-7. doi: 10. 1016/ j. jpsychires. 2015. 08. 014. Epub 2015 Aug 25.
  • 山本 義徳(やまもと よしのり)
    1969年3月25日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
    ◆著書
    ・体脂肪を減らして筋肉をつけるトレーニング(永岡書店)
    ・「腹」を鍛えると(辰巳出版)
    ・サプリメント百科事典(辰巳出版)
    ・かっこいいカラダ(ベースボール出版)
    など30冊以上

    ◆指導実績
    ・鹿島建設(アメフトXリーグ日本一となる)
    ・五洋建設(アメフトXリーグ昇格)
    ・ニコラス・ペタス(極真空手世界大会5位)
    ・ディーン元気(やり投げ、オリンピック日本代表)
    ・清水隆行(野球、セリーグ最多安打タイ記録)
    その他ダルビッシュ有(野球)、松坂大輔(野球)、皆川賢太郎(アルペンスキー)、CIMA(プロレス)などを指導。

  • アスリートのための最新栄養学(上)
    2017年9月9日初発行
    著者:山本 義徳


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