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マグネシウムとトレーニング効果2

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掲載日:2020.10.01
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睡眠を深くする

そのリラックス効果から、マグネシウムは睡眠を深くすることが知られています。(※72,※73)
日本でZMAが流行り始めたときも、テストステロン増加作用ではなく、睡眠を深くする作用のほうが先に知られるようになりました。この効果を得るためには、夕食後にマグネシウムを摂るようにする必要があります。

記憶を助け、ADHDを治す?

グルタミン酸は興奮性の神経伝達物質として働きますが、その受容体の一つにNMDA受容体があります。この受容体はグルタミン酸と結合するとカルシウムイオンを細胞内に取り入れ、記憶に必要な反応を引き起こします。
しかし普段からカルシウムイオンが簡単に入るようになってしまうと、細胞が興奮しっぱなしになり、過活動を引き起こしたり、正確に記憶をすることができなくなったりします。それを防ぐのがマグネシウムイオンで、カルシウムイオンが入るときの「門番」のように働きます。

東京都医学総合研究所の研究で、マグネシウムが記憶の維持に関わることが証明されました。(※74)また40名の過活動が見られる子供たちにマグネシウムとビタミンB6を飲ませたところ、過活動や攻撃性が抑制され、注意力も高まりました。マグネシウムとビタミンB6の摂取を中止したところ、元に戻ってしまったそうです。(※75)

カルシウムとのバランスは

カルシウムとマグネシウムの体内におけるバランスは2:1であることが重要だとされています。そのためマルチミネラルのサプリメントには2:1のバランスでカルシウムとマグネシウムが含まれていることが昔は多かったのです。

しかし牛乳を多く飲む地域で、骨折が多いという報告があります。これは日照時間が短くてビタミンDがつくられないという面もありますが、乳製品におけるカルシウムとマグネシウムのバランスの悪さも大きく関係しています。

乳製品はカルシウムが10に対し、マグネシウムが1しか含まれないのです。原始時代は乳製品を飲んだり食べたりすることは少なく、逆にナッツ類を食べることが多かったと考えられています。
ナッツ類にはマグネシウムが多く含まれるため、ヒトのDNAはマグネシウムが多く、カルシウムが少ない食事を求めていると思われます。
通常の食事ではカルシウムも不足していますが、マグネシウムはもっと不足しやすいため、マルチミネラルの製品も最近では「1:1」の比率になっているものが多くみられます。

摂取量は?

厚生労働省によるマグネシウムの推奨摂取量は一日に男性で400mg弱、女性で300mg弱ですが、平成25年の国民健康・栄養調査での摂取状況は男性で255mg、女性で225mgとなっています。
既に足りていないのですが、ここから心臓血管系疾患の予防やインスリン感受性への効果を考えると、追加で一日あたり200~300mg程度のマグネシウムをサプリメントとして補いたいところです。耐容上限量は設定されていないのですが、多めに摂取すると間違いなく下痢します。
もともと酸化マグネシウムは下剤として使われているくらいですので・・下痢を防ぎつつ、十分なマグネシウムを摂取するための方法として「エプソムソルト浴」というものがあります。
つまり経口ではなく、入浴剤として使って肌から吸収させるのです。なおエプソムソルトとは塩ではなく「硫酸マグネシウム」のこと。イングランドのエプソムで発見され、見た目が白く塩に似ているため、そういう名前になったそうです。

ちなみに肌からマグネシウムが吸収されるのか、については2004年にバーミンガム大学で研究・確認されています。(※76)エプソムソルトはネットで簡単に買えます。典型的な利用方法としては、お湯150リットルに対し、150~300gのエプソムソルトを入れ、40度程度のお湯に20分ほど浸かるだけでOKです。それを週3回ほど行ってみてください。またマグネシウムオイルというものもあります。
これは普通にマグネシウムを補給するほか、炎症を抑える作用があるため、関節の痛みを感じる部位に塗ることで、効果が期待できます。これもネットで買えるので検索してみてください。

ただしマグネシウムオイルの中には塗った時に肌への刺激作用があるものがあり、ピリピリした痛みを感じることがあります。口コミなどを見て、刺激の弱いものを選ぶようにするといいでしょう。食事では大豆やゴマ、ココア、バナナなどに多く含まれます。経口のサプリメントとしてはZMAとして摂取するのが手軽ですが、下痢しないように量を調整する必要があります。逆に便秘がちの人はZMAを緩下剤として使うことができます。
※72: Oral Mg( 2 +) supplementation reverses age-related age-related neuroendocrine and sleep EEG changes in humans. harmacopsychiatry. 2002 Jul; 35( 4): 135-43.

※73: Magnesium supplementation improves indicators of low magnesium status and inflammatory stress in adults older than 51 years with poor quality sleep. Magnes Res. 2010 Dec; 23( 4): 158-68. doi: 10. 1684/ mrh. 2010. 0220. Epub 2011 Jan 4.

※74: Mg( 2 ) block of Drosophila NMDA receptors is required for long-term memory formation and CREB-dependent gene expression.Neuron. 2012 Jun 7; 74( 5): 887-98. doi: 10. 1016/ j. neuron. 2012. 03. 039.

※75: Improvement of neurobehavioral disorders in children supplemented with magnesium-vitamin B 6. I. Attention deficit hyperactivity disorders. Magnes Res. 2006 Mar; 19( 1): 46-52.
※76: Report on Absorption of magnesium sulfate (Epsom salts) across the skin
  • 山本 義徳(やまもと よしのり)
    1969年3月25日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
    ◆著書
    ・体脂肪を減らして筋肉をつけるトレーニング(永岡書店)
    ・「腹」を鍛えると(辰巳出版)
    ・サプリメント百科事典(辰巳出版)
    ・かっこいいカラダ(ベースボール出版)
    など30冊以上

    ◆指導実績
    ・鹿島建設(アメフトXリーグ日本一となる)
    ・五洋建設(アメフトXリーグ昇格)
    ・ニコラス・ペタス(極真空手世界大会5位)
    ・ディーン元気(やり投げ、オリンピック日本代表)
    ・清水隆行(野球、セリーグ最多安打タイ記録)
    その他ダルビッシュ有(野球)、松坂大輔(野球)、皆川賢太郎(アルペンスキー)、CIMA(プロレス)などを指導。

  • アスリートのための最新栄養学(上)
    2017年9月9日初発行
    著者:山本 義徳


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