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木場克己 怪我を減らし、パフォーマンスを高める 奥深きインナーマッスルの世界 #1

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掲載日:2017.06.02
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いま書店でトレーニング関連のコーナーに行くと、目に入るのが「体幹」「コア」の文字だ。ぶれない軸、優れた柔軟性、敏捷性。アスリートの世界でも日常的な生活においても、「体幹」を鍛えるトレーニングがここ数年で一気に注目されている。

体幹をトレーニングして身体能力を高めた選手といえば、インテル・ミラノの長友佑都選手だ。長友選手がトップアスリートとして活躍するのと同時に、その長友選手やFFCフランクフルトの永里優季選手、鹿島アントラーズの金崎夢生選手らの専属トレーナーを務める木場克己さんのメソッド「KOBA式体幹☆バランス トレーニング(以下:KOBAトレ)」も知られ、「体幹」「インナーマッスル」への関心が高まった。

数多くのアスリートの専属トレーナーを務める一方、(有)コバメディカルジャパン、KOBAスポーツエンターテインメント(株)代表取締役として全国で治療院、接骨院、トレーニングスタジオを展開し、ガンバ大阪ユースコンディショントレーニングアドバイザー(2016~)、ルネサンス競泳部 トレーニングアドバイザー(2015年~)、日本郵政グループ女子陸上部体幹バランストレーニングアドバイザー(2016~)などトレーニングの第一線で活躍する木場克己さんに、体幹・体軸を重視するようになった理由、具体的なメソッドやトレーナーとしてのお考えをうかがった。

長友佑都選手の強靭な身体能力の「コア」、「体幹」に注目したいきさつとは

-- まずはKOBAトレのことを深めに伺いたいです。「体幹」に着目された経緯を教えてください。


体幹という言葉はもともとは医学用語で頭部、上肢、体幹、下肢と名づけられていて、身体の胴体部分を指します。私は医療専門学校で鍼灸師・柔道整復師の資格を取得後、整骨院やスポーツクラブなどで働いて「体幹」という言葉を知りました。

近年、トレーニングの世界で「体幹」のキーワードが広がったのは、2014年3月刊『長友佑都 体幹トレーニング20』(長友佑都著、KKベストセラーズ)がベストセラーになり、長友選手と共に有名になったからだと思います。

私自身は1995年から2002年までFC東京でメディカルトレーナーのチーフを務め、選手の怪我やリハビリと向き合う中でKOBAトレのベースを作っていきました。メディカルトレーナーはフィジカルコーチと役割が違って怪我をした選手のコンディショニングを担当し、1人1人の既往歴をみながら身体作りをします。

なんども怪我をくり返す選手がいるので、再発させないためにはどうしたらいいかを考えて、ただ治療だけをするのでなく、症状に合わせた身体作りをもう少し行うこともメディカルコーチの方で担当して、フィジカルコーチにバトンタッチするようにしてみました。

ところが、それでも再発する選手がいました。怪我をする選手を見ていると、ほかの選手に比べて柔軟性がない、体幹が弱い、上半身を支える下半身のバランス力が弱いといった共通項に気づきました。だったらまずは姿勢を整え、しっかりと安定した身体作りをしたらどうだろうと考えたんです。

私は小・中学生まで柔道、高校・大学時代はレスリングをしていて、当時のトレーニングメニューをサッカー選手にも取り入れたらよくなるのではないかとインナーマッスルから鍛えるトレーニング法を考えました。

体幹トレーニングというと、腹筋、背筋のイメージがありますが、腹筋・背筋はアウター、外側の筋肉です。KOBAトレの体幹は、「背骨と骨盤、その骨を支える筋肉」のことを指します。長友選手も、出会った頃はアウターのトレーニングばかりでインナーが弱かったからヘルニアを患い、腰椎分離症にまでなって私のところに来たんですね。

怪我をする選手が大幅に減った体幹とバランストレーニング

-- リハビリから生まれたトレーニングだった。


FC東京の前身は東京ガスで、私が勤めていた頃はプロ・アマの選手が混在していました。それぞれにあわせたメニューを考える中で、バランス能力を保つにはどこの筋肉を鍛えればいいのかというと「体幹」だったわけです。

たとえば関節回りの腱や足首を捻挫すると、治療で固めて安静にするのでその部分の筋肉が動かしにくくなります。バランスが崩れた状態でジョギングをすると負担がかかり、頭がぶれる。怪我をくり返すのは体幹(胴体)、それもインナーマッスルの弱い選手だと見えてきたので、バランス力を鍛えるために、高跳び用のマットを導入してもらいました。マットの上で片足立ちをするリハビリメニューがあり、不安定なマットでは普段と違う筋肉を使うので、怪我をしたところにも自然と力が入って鍛えることができます。

マットの上で腿上げをしてすぐに疲れてしまうのは、頭がぐらぐらするバランスの悪い選手でした。ジャンプをして着地するときに片足でぐっと踏ん張れる選手は、怪我をしていないしパフォーマンスも高い選手だというのが見えてきたので、だったらどういうトレーニングをすればパフォーマンスを上げられるかという観点からメニューを考えていきました。

体幹でもインナーに着目して、アウターと共に鍛えるトレーニングを行ったらパフォーマンスがあがり、怪我が出なくなりました。さらに追求してチューブを導入し、最初は長いチューブを輪っかにして骨盤の幅に足を広げて固定し、足を横に振ってキープ、次は足を後ろに振るなどをしてみたら、瞬間的に止めた時に足がぐらつく選手は下半身が弱い。足の裏で地面を噛めず軸足が弱いから、じゃあ体幹とバランス系を一緒に鍛えていこうと続けるうちに、筋肉系の怪我が少なくなりました。リハビリの原理を応用してKOBAトレに行き着きました。

バランスの悪い状況を作ると選手の弱い部分が浮き彫りに。

バランスの悪い状況を作ると選手の弱い部分が浮き彫りに。

長友佑都選手との出会い

-- 長友選手との出会いは2007年ですね。出会って一緒に取り組んだのが、体幹を鍛えるチューブトレーニングだったわけですね。


長友選手は、自分がFC東京を退団してから5年経った時に経営している鍼灸整骨院に、怪我の治療とリハビリ目的で来たのが最初でした。その頃、彼は明治大学のサッカー部に所属しながら、強化指定選手としてFC東京の練習に参加していました。



しかしヘルニアと腰椎分離症を患い、再発の繰り返しで、サッカーをあきらめざるを得ないレベルにまで悪化していました。まだ練習生なのにリハビリに来る長友選手を見て、熊本出身の土肥洋一選手が「九州出身のトレーナーがいる」と、私に引き合わせたんです。

長友選手は高校は東福岡だけれど、実は愛媛県出身です。だからもし彼が東福岡と言わなかったら、引き合わされていなかった(笑)

まず腰痛を治してから、無理のないチューブトレーニングを筋力強化に取り入れていきました。

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「KOBAさんがいなかったら、世界で戦えなかった。感謝しています! これからも僕を作って下さい!」トレーナー冥利につきる長友選手からのメッセージ


体幹は身体の基本、土台作り全てのアスリートに有効

-- 体幹を強めると、どのようにパフォーマンスが上がるのでしょうか。


身体の軸が安定して、競り合いで当たり負けしなくなりますし、1歩の動き、ゴール、軸足ターン、ものを取るのでも身体能力が高まります。

人の身体は何をするのでもインナーマッスルから働くので、インナーマッスルを鍛えると身体がよりスムーズかつ正確に動かせるようになります。それにアウター系を強くするトレーニングを交ぜていくかたちです。どの競技にも応用できます。

ただし基本的には体幹を鍛えればパフォーマンスがあがるのではなくて、人それぞれに弱点があるんですよね。

永里選手に初めて会った時、マットで片足立ちをしてもらったらぐらつきがあるので既往症を尋ねたら、中学時代に前十字靭帯を2回断裂してオペをしていると。だとしたら体幹を鍛える前に膝回りの筋肉をつけないと、また怪我をしてしまいますねと。ですから体幹は身体の基本、土台作りであって、体幹でパワーを増すというよりも、バランス、体軸の筋力を作るのが主眼です。


-- 体系だてていったのがKOBAトレなんですね。


KOBAトレは自分の考えをもとに、柔軟性、安定性、バランス、連動性の4つを重視しています。1つでも欠けるとパフォーマンスが上がらないのは私の経験で見てきました。

長友選手と共に一気に有名になる前から、体幹という言葉はありました。ただ地味なので(笑)注目されていなかった。

体幹トレーニングを行っている人はほかにもおられます。私は私なりに体幹トレーニングの方法を考えました。





次回:さらなるインナーマッスルの事例や可能性、今後の広がりをお伝えします。



木場克己 インナーマッスル インタビュー

木場克己 怪我を減らし、パフォーマンスを高める 奥深きインナーマッスルの世界 #1
木場克己 KOBA式体幹★バランス トレーニング の広がりと可能性 #2




インタビュー・構成:chie aoki
木場克己(コバ カツミ)
KOBAスポーツエンターテイメント株式会社 代表取締役
有限会社コバ・メディカルジャパン 代表取締役
株式会社アスリートウェーブ 代表取締役
一般社団法人JAPAN体幹バランス指導者協会 代表理事
一般社団法人TTC 代表理事

鍼灸師/ 柔道整復師/中津中医学院認定鍼師/健康運動指導士/日本体育協会アスレティックトレーナー/東京都教育委員会講師/日本体育協会公認アスレティックトレーナー検定員(2008年〜)/KOBA式体幹バランストレーニング協会代表/他、多くのクラブチームアドバイザー、プロ選手専属トレーナー、著書多数


■HP
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KOBAトレ(KOBA式体幹★バランス トレーニング)

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