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トップ選手のトレーニング 体操/トランポリン #2 連携と今後編 ナショナルチームフィジカルコーチ 泉建史

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掲載日:2017.12.25
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国内最高峰である日本代表選手達を率いるチームにおいてトレーニングはどう行われているのか。
日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)体操・トランポリン/ナショナルチームにてフィジカルコーチを務め、ストレングス&コンディショニングに関する国際的な教育団体「NSCAジャパン」にて広報委員会委員長を務めるフィジカルコーチ/トレーナーの泉建史(いずみたけし)氏にトレーニング×競技スポーツの観点から話を伺った。

技術コーチからの相談

「競技練習の体力をつけること」「跳躍力の確保」「技に備えた柔軟性の向上」「着地動作の安定」などの代表例があり引き続き強化を構築できるように努めています。
身体のバランスの相談も多く、例えば足を持ち上げる動作だけでも選手それぞれの癖があります。その癖が競技中にもそのまま反映されることで、代償動作と呼ばれる非効率な動きとなってしまいます。

こういった癖や代償動作は特異的なテストを行う以外にも『日常動作、準備運動』を観察するとわかりやすいことが多いです。
競技特性として自然に出ることも踏まえて結果的にそれがプラスに働けばいいですが、マイナスに働くこともあるのでそのあたりの修正も自分の役割であり、技術コーチから要望が出ていることでもあります。テクニカル面を考慮しながらトレーニングを提案しますし、技術コーチとの些細な動きも確認とるようにしています。


そういった事を踏まえずにトレーニングを続けていくと後々大変な事になってしまいます。
選手が自分で考えて動くということはとても大事なことですが、それをより良い方へ導くためのサポートをして選手を次の段階へ上げることも重要な役割の1つです。

また、インターネットなどで情報を手軽に入手できるようになることで、選手自身もそれらの情報の真偽について確認しに来てくれるときもありますので、根拠に基づいた情報を基に、選手が理解できるように伝えています。

フィジカルコーチと多職種の連携

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フィジカルコーチとして心がけしている1つに「色々なジャンルのスペシャリストと情報共有すること」があります。コミニュケーションを通じた連携と強化の構築は欠かせません。

ナショナルチームメンバーを含め、テクニカルコーチ、アスレティックトレーナー・S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチ・パーソナルトレーナー・柔道整復師・鍼灸師・理学療法士・管理栄養士など競技選手の所属先に関わった方々やその他にナショナル強化に深くかかわる情報戦略や撮影スタッフ、測定データをフィードバックする関係者との連携も重要で、強化に繋げることを大切にしています。

多くの方々と力を合わせることで、新たな発見をしたり可能性を広げることができます。
ナショナルチームで監督やコーチをはじめとしたテクニカル面や、トレーナーと身体状態を共有できるのは今後のさらなる競技の発展と構築にも繋がると考えています。

自分の役割であるフィジカルコーチは競技に対して戦略的にメニューの立案を行ないますが、1人で独立的にトレーニングの指導をするのではなく技術コーチやケアの担当と協力して進めていかないと意義が薄く、成立しません。選手だけでなく関係者の方とも情報を共有することが大切です。

NSCAについて

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私は現在、ストレングス&コンディショニングに関する国際的な教育団体「NSCAジャパン」の組織委員会の一人として関わっています。
フィジカルコーチとして関わる競技の「フィジカル強化指標」を作成する中でNSCAの文献が大いに役に立っています。実践的なトレーニング実例や身体の変化など選手にもロジカルに考えてもらいトレーニングに取り組んでもらいます。

NSCAでは身体の評価、スピードトレーニング、基礎的なウエイトトレーニングから自重トレーニング、身体の管理やプログラムの組み立てまで幅広い情報を知る事ができます。

当然、NSCAで発信する情報やトレーニングを全くそのまま導入するわけではなく、フィジカルコーチとして競技特性を考えて、テクニカルのコーチやケアに関わる方をはじめ多くのスペシャリストと考察しながら選手の特徴や状況(環境・強化期間)に合った指導を行います。

共通するのは、競技者や関わる方に自分の「身体を知ること」「学ぶこと」「実践すること」の3つを伝えています。最後は選手が自分一人で考えないといけないときがあるので、その点を「フィジカル強化」とともに「教育」を通じてサポートしたいと考えています。

このライセンスでは多くの指導者がスポーツ競技や健康事業に関わり情報交換ができる、地域のセミナーやカンファレンスを多く開催しているので、関係者などを通じて海外や日本の第一線の情報を確認して、世界と戦っている実例から健康が日常に根付く取組みまで多岐にわたる情報を知ることができます。国内外問わずS&Cに関わる方と協力して、一層発展させていきたいです。
NSCAジャパンS&Cカンファレンス  ※

国内最大・最高レベルのストレングス&コンディショニングに関する知識と技能を学ぶためのカンファレンス。海外、日本におけるスポーツ現場の最前線で活躍する講師や著名な指導者や研究者を招聘し専門的なテーマの講義やワークショップを実施。

◾️NSCAジャパンS&Cカンファレンス

◾️ナショナルチームフィジカルトレーニング
強化プラン  文献

◾️「アスリートの貧血」を考える 文献

未来は今、今は未来

ロシア・モスクワ遠征/日本代表トレーナー・フィジカルコーチ 泉建史氏

ロシア・モスクワ遠征/日本代表トレーナー・フィジカルコーチ 泉建史氏

世界には強豪国のロシア、中国、東欧州などがあり、フィジカルコーチとして2020年、2024年、その先のオリンピックに向けて引き続きフィジカルトレーニング強化の準備を進める。
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「未来は今、今は未来」という言葉を常に大切にしています。今やっていることは過去に積み重ねた未来の形であって、今精一杯やったことが未来の形になります。

その未来で、自分ひとりの仕事だけで完結させることなく、多くの人が関わることで年月を超えて他の誰かへと伝わることも大切にしたいと思っています。
National Strength and Conditioning Association(NSCA)
ストレングス&コンディショニングに関する国際的な教育団体として1978年に設立。世界52ヶ国に約33,000人の会員が所属しており、ストレングストレーニングとコンディショニングの実践と研究から得られた最先端の情報を世界中に配信し続けている。
スポーツ科学・各スポーツ競技、医療分野、フィットネス分野などの様々な専門家グループ共にスポーツパフォーマンスとフィットネスの向上を目的とした、適切なストレングストレーニングとコンディショニングの活用という共通のゴールを目指し活動を行う。科学者とスポーツ現場の指導者の橋渡しであり、ストレングストレーニングとコンディショニングの分野に関する新しい研究の実用化を目指すことで、トレーニング指導の専門的職業としての発展を促進させる。
フィジカルコーチ/トレーナー
泉建史(いずみ たけし)
経歴
■日本オリンピック委員会(JOC)強化スタッフ(医・科学スタッフ)
 体操/トランポリン・新体操 ナショナルチーム/フィジカルコーチ
 ナショナル強化医科学支援チームPTC/フィジカルコーディネーター
 ウエイトリフティング ナショナルチーム/フィジカルトレーナー
■ナショナルトレーニングセンター強化拠点/高地トレーニング
 飛騨御嶽高原高地トレーニングエリア/医・科学サポートプロジェクト委員
■JRA日本中央競馬会/競馬学校/トレーニングセンター騎手実践課程
 フィジカル強化担当/WILLING所属フィジカルコーチ
■大阪医専/ヒューマンアカデミー大阪/大阪府柔道整復師会 特別講師歴任
■Japan Life Support Association(JLSA)大阪支部長
■NSCAジャパン広報委員会委員長/NSCAジャパン関西AAD

ライセンス
■NSCA:全米ストレングス&コンディショニング協会認定パーソナルトレーナー
■ACSM:アメリカスポーツ医学会認定運動生理学士
■健康運動指導士

国際大会にむけてフィジカルコーチの役割で複数の日本代表チームのフィジカルトレーニング指導と構築を行う。プロスポーツの育成にも関わり、JRA日本中央競馬会/競馬学校・トレーニングセンター騎手実践課程(WILLING所属)のフィジカル強化も担当。国内のスポーツ関係者・各分野のスペシャリストとのプロジェクトで様々なスポーツ競技・日本代表選手・プロスポーツ選手のフィジカル要素の強化を図る。また長年、国際団体でのスポーツ指導者の教育にも関わり行政スポーツ健康事業にも携わる。NSCAジャパンアワード授賞式にてNSCAジャパン最優秀指導者賞受賞、パーソナルトレーナー・オブ・ザ・イヤー受賞。

2020年現在 記述

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