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日本代表チーム/フィジカルトレーナーに聞く子供のトレーニングと体力づくり#2

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掲載日:2020.12.24
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2020年、環境の変化により、子供が十分に運動できずに不安を抱える親も多い。こういった未曽有の状況に際してどうすべきか。ジュニア選手を含む、各スポーツ競技のトレーニングをサポートをする日本代表のトレーナー陣(フィジカルコーチ)にビデオ通話にて話を伺った。
(協力:東大阪アリーナ/東大阪市)

泉 建史(いずみ たけし)
(体操/トランポリン 他複数競技)
日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学/コーチング)
ナショナル強化医科学支援チームPTC/フィジカルコーチ
複数ナショナルチーム強化兼任 体操/トランポリン・新体操・ウエイトリフティング他
ナショナルトレーニングセンター強化拠点/高地トレーニング/
飛騨御嶽高原高地/医・科学サポートプロジェクト委員
街のスポーツ健康プロジェクト/東大阪/HOSスポーツ健康教育アドバイザー
NSCA JAPAN最優秀指導者賞


松田 浩和(まつだ ひろかず)
(テニス)
日本オリンピック委員会専任メディカルスタッフ/強化スタッフ(医・科学)
日本テニス協会ナショナルチーム/デビスカップ・フェドカップ日本代表チームフィジカルコーチ
日本テニス協会強化本部テクニカルサポート委員会委員
DRESS BODY PROGRAM代表


栄徳 篤志(えいとく あつし)
(アーティスティックスイミング)
日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学)
※日本水泳連盟・日本体操協会より委嘱
アーティスティックスイミング日本代表チーム フィジカルコーチ
医療法人はぁとふる 運動器ケアしまだ病院
Top Athlete Support team Heartful:「TASH」所属 理学療法士

成長段階において行わない方が良い、推奨していないトレーニング

松田浩和氏

松田浩和氏

松田:YouTubeでよくある「〇〇するだけ」というようなトレーニング。そういった極端なものを鵜呑みにすることは推奨しません。情報が多い社会なのでジュニア、シニアやプロも含めて情報の適切な判断が必要です。

「これが良い」と紹介されていてもそれは前提条件次第で、「誰が何のために必要なのか」によって正解か不正解かの判断が下ります。
情報収集は重要ですし、その一環としてYouTube等を活用する事自体は良いと思いますが、見たものをそのまま鵜呑みにしてしまうのは早計に思います。

新たな情報を入手したときにはぜひ周りのコーチや専門職にも見解を求めてみてほしいです。我々指導者側からしても「こういう情報があったがどう思うか」という相談は大変勉強になるので積極的に聞かせてほしいです。それと、NSCAのSNSはぜひチェックして頂きたいと思います。
栄徳篤志氏

栄徳篤志氏

栄徳:ジュニア世代に対して推奨しないものとして「過度な○○」というものがあります。過度な柔軟性の追求や、無理しないとできない、無理な負荷がかかる運動メニュー、無理な方向に関節が動くことなどです。自分の能力(意識下の運動)でコントロールできないものは過度な負荷だと思うので推奨しません。
先ほどの松田さんの話にもあったように、自体重を支えられないのに負荷をかけるのかという話にも関連しますが、片足で立てないのに効率よく跳べますか?着地ができますか?という話です。
自分の能力で制御できないものに関してはマシンでもマット上でも最悪の場合、傷害につながります。無理して頑張ればできるようなことももちろんあるでしょうが、脳に誤学習が起きてしまって本来学習したかったものと違うものが習得されてしまう可能性があると思います。そういった観点から、対象者の能力でコントロールしきれないものはこの世代には指導しないようにしています。
「これができるようになったらこれ」という風に、ゲームをクリアしていくような感覚で目標とゴールを提示しながらトレーニングを進めていくことが重要なのかなと考えています。
泉建史氏

泉建史氏

泉:高い柔軟性が求められる競技でも可動範囲は決まっていて、ストレッチや開脚をするときの体勢によっては極端に過度な負荷がかかることがあります。成長期は同じ年代でも個人差が出やすく骨格や靭帯の付き方は異なるので、できるだけ「個別性」があることを配慮してトレーニングをすることが大切と言えます。1つのエクササイズにとらわれないようにすることが重要かと思います。
またバランスを良くするという点で、NSCAが発表した「長期的な運動能力の開発に関するNSCAのポジションステイトメント」という文献ではそれらの成功に向けての10本の柱(下記)があり、ジュニア期についてはサンプリング法のように一つの運動にとらわれず多くの種類の運動に取り組んでもらいたいです。そうすることで長期的な疲労の蓄積を防ぎ、特定の関節の障害のリスク管理がしやすくなると考えています。
長期的な運動能力の開発を成功させるための10本の柱

1. 長期的な運動能力の開発過程は、青少年のきわめて個別的で非直線的な成長発育特性に適合させることが必要である。

2. 年齢や能力、意欲を問わず、すべての青少年は、体力と心理社会的な幸福感の両方を促進する、長期的な運動能力開発プログラムに参加することが必要である。

3. すべての青少年に対し、幼少期から、主に運動スキルと筋力の発達に重点を置いた体力向上を奨励することが必要である。

4. 青少年の多様な運動スキルを促進し向上させるためには、長期的な運動能力開発過程において、早期のサンプリング法を奨励することが必要である。

5. 子どもの健康と幸福は、常に、長期的な運動能力開発プログラムの理念の中心でなければならない。

6. 長期的な運動能力開発プログラムへの継続的な参加を保障するために、青少年は傷害リスクの低下に役立つ身体コンディショニングに参加する必要がある。

7. 長期的な運動能力開発プログラムでは、すべての青少年に、健康とスキルの両方に関連する体力要素を促進するための多様なトレーニング様式を提供することが必要である。

8. 専門職は、長期的な運動能力開発への対策の一環として、適切なモニタリングと評価の手法を用いる必要がある。

9. 青少年を指導する専門職は、長期的な運動能力の開発を成功させるために、トレーニングプログラムを体系的に漸進させ個別化することが必要である。

10. 有資格専門職の存在と適切な教育学的アプローチは、長期的な運動能力開発プログラムの成功の基本である。

引用:長期的な運動能力の開発に関するNSCAのポジションステイトメント
https://www.nsca-japan.or.jp/12_database/ps_longterm.pdf

ジュニア世代の変化の傾向、行動の変容

泉:日常的なことですが、携帯電話など近くにあるものを見続けることで姿勢の取り方が悪くなっている印象があるという話が関係者の間でよく出ます。
首が1センチ前に出るだけでどれだけの負担がかかるか。
有名な話では1976年のスウェーデンで発表された、姿勢による椎間板にかかる圧力の表などをジュニア向けにも紹介します。
まず姿勢を作って整えてから運動するという考え方です。「脱ペンギンスタイル」と負担かかる姿勢の一例を紹介して、無理に姿勢を正しくというよりはそれらのきっかけになる行動をなくすという考え方も伝えています。
また「順応性」などを養う機会になる自然環境(公園や野山がある)において個々に差があるので、様々な運動体験などの必要性を感じました。ボールを使わない競技でもボールを使う、リズムをとる調整力(Co-ordination)など多様性が日常的にも触れる必要性を感じます。

栄徳:最近の子はスマホですぐ調べる習慣がついている感じがあります。
例えば、会話中に病名や障害名が出るとすぐにその名称を調べる。そして自分にとって当てはまることに共感・同調してしまう…。すぐに調べるそのこと自体は良いと思いますが、その情報を鵜呑みにしてしまうのは考えものです。

もう一つ、広く共通するかはわかりませんがコミュニケーション能力に関して、こちらが言ったことに対してその言葉通りにしか受け取れず、その裏にある意味を感じ取ることが不十分になっているという点が気になっています。
スマホを持っていることが普通になり何事も簡単に調べ情報が手に入るという現代社会と直接関係しているかは不明ですが、文字から得られる情報はその文字通り、言葉から得られる情報はその言葉通り…。指導場面ではどう声掛けすればこちらの意図が正確に伝わるか考えることが非常に多いです。

松田:早期のサプリメンテーションに頼りすぎているという印象があります。
高たんぱく低脂質とか、ローカーボとか、世間的にそういったキーワードが定着してきていて、コンビニにも乳酸菌飲料やプロテインも増えてきています。我々が子供だった時代とは大きく変わってきている点に関してはすごく良いと思います。
その一方でしっかりとバランスよくご飯を食べずサプリばかりに頼ってしまう。その点はジュニアそのものの課題であって、与えてしまう保護者の課題でもあります。
やはりベースとなる食事があった上で、間に合っていない部分を補って改善していく位置づけです。
例えば遠征などで通常と異なる環境ではサプリは有効に活用できるかと思いますが、日常的にサプリに頼りすぎてしまうと利便性が悪影響になることもあります。先述のSNSやYouTube然りです。ちゃんと判断しないといけない。

また、感覚器の機能低下が著しいように思います。「眼」も感覚器で、スマホやゲームなど眼を一点に固定しておくだけで必要な情報が全て得られてしまうので、過度な固定視となります。過度の固定視は周辺視を低下させ、周辺視の低下は注意力を散漫にさせます。

本来、感覚機能は自身や周辺が安全か否かを判断しています。ちゃんと見えていない、ちゃんと身体が地面についていないことで脳は「危ない」「逃げたい」という判断を下して過度の筋緊張や出力の低下を生み、それらはせっかくの普段の努力をそこで台無しにしてしまいます。そういった意味で人間本来の自然な生活をある程度意識して、保護者に導いてほしい部分でもあります。

続き:日本代表チーム/フィジカルトレーナーに聞く子供のトレーニングと体力づくり#3
フィジカルコーチ(左から松田氏・泉氏・栄徳氏)日本代表トレーナー陣 取材協力 「子供のトレーニングと体力づくり」

フィジカルコーチ(左から松田氏・泉氏・栄徳氏)日本代表トレーナー陣 取材協力 「子供のトレーニングと体力づくり」