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孤高の探求者 山本義徳インタビュー #3 Q&A編

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掲載日:2017.11.20
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インタビュー#1 101の理論編 
インタビュー#2 ダイエット法とサプリ編

ボディビルダーでありトレーニング指導者として幅広く活躍する山本義徳さん。ダルビッシュ有選手、松坂大輔選手らトップアスリートから一般の方までクライアントを指導し、サイトを通してトレーニングや栄養に関する知識を発信されています。

Kindleの電子書籍として7冊出版してきた栄養に関する最新情報を、『アスリートのための栄養学 上下』(NextPublishing=ネクストパブリッシング)より紙の書籍として出版された山本さんに、トレーニングや栄養に関して最新のお話を伺いました。

□ トレーニングはストレスの応答反応

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-- 人の体型を大きく3種類に分けるソマトタイプ(外胚葉型体型・中胚葉型体型・内胚葉型体型)において、筋肉がつきにくい人やつきやすい人、それぞれに対してメニューの構成や負荷のかけ方は変わるものでしょうか。


細身で痩せ型の多い外胚葉型の方は摂取カロリーを増やすだけでなく消費カロリーを減らさないと筋肉は増えにくいですね。ですからトレーニング量は減らさないといけない。あと日常生活でもあまりカロリーを使わないようにするとか。内胚葉だとそれが逆になります。


-- タンパク質を摂る事と筋肉がつく事は必ずしもイコールではないのでしょうか?

まあそうですね。タンパク質を摂れば筋肉がつくというわけではありませんので、先ほどのたんぱく合成でいえば、糖質を摂ってインスリンを出して、インスリンの働きが最終的に筋たんぱくを合成してくれるとか。
あるいは男性ホルモンや成長ホルモンが筋たんぱくを合成してくれますので、筋肉を増やすならある程度糖質も摂らなくてはいけない。ですから糖質を摂って筋肉を増やして、そのあとは糖質を制限して脂肪を減らすというような感じで期間を区切ってやるといいと思います。


-- たとえば筋肉を思い切り増やしたい人は糖質をどのくらい摂るとよいですか?

だいたい体重1キロ当たり6グラムぐらいは摂りたいですね。筋肉を増やす時期はグリセミックインデックスの低いもので、ただトレーニング中はグリセミックインデックスの高いワークアウトドリンクで消化吸収を早くする。その方がインスリンもたくさん出ますので。


-- 少し食事から離れるんですけど、けがをしたり炎症が起きているときに抗炎症剤で炎症を抑えると、回復が遅くなるなどはありますか?

炎症が起こりすぎると血行が悪くなり、栄養の吸収や悪い物質の排出ができなくなってしまうので、けがの場合は炎症を抑えるシップやアイシングが必要です。最初の数日はアイシングや抗炎症剤で抑えてあげる。いずれにしても炎症が完全に抑えられるわけではありませんので、治癒の過程を邪魔することにはならないです。
最近ではアイシングも効果が見直されつつあります。盲目的に、怪我をしたからすぐアイシングとはならず、状況に応じた導入が考えられ始めています。


-- 筋トレ後の超回復の期間にシップを貼り、炎症を抑えることで悪影響が出たりしますか?

今は、筋トレの後は温める方が回復に対する効果が高いと言われています。
筋トレの場合は炎症というほどのものは起こらなくて、クレアチンリン酸の減少、ATP(アデノシン三リン酸)の減少、カルシウムイオンの減少といったいろんな物質が減ることが普段と違う状態を生み、それがストレスになるんです。

超回復の理論だと炎症から回復するというイメージですが、筋トレでは炎症と呼ばれるほどのものはそんなに起こっていない。だから温めて血行をよくし、たんぱく質の合成を高める方がいいと最近は言われるようになっています。


-- 筋トレの反応は炎症だと思っていました…。

筋肉痛なども炎症が起こっているわけではなく、発痛物質がその部位に溜まっているだけですね。実際には断裂や炎症などは起こっておらず、トレーニングに対するストレス応答なんです。


-- ストレス反応があるということはもう筋トレになっている。

たとえば手に豆ができる感じ。ストレスの応答反応は3つあり、警告反応期、抵抗期、疲弊期です。初心者はバーベルを持つと手が痛くなり、離すと消える。

これが警告反応期で、ずっと続けていくと手に豆ができてくる。でも炎症が起こっているわけじゃないのが抵抗期で、筋肉が発達する時期ですね。ずっとやっていると豆が破れたりして、それが疲弊期、オーバーワークです。


-- 抵抗期くらいなら、トレーニング量をもう少し増やして週2回とか。
抵抗期を続けることですね。筋肉が太くなるのは筋たんぱくが合成されて増えていくという状態。1つ1つの細胞が大きくなっていくということです。

□ 高齢でも筋肉は増える

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-- シニアから始めても理想の身体になれたりしますか?

90歳代の人たちに高齢者用のトレーニングを行ったら、筋量が増えたという報告があります。生きているとは細胞が入れ替わっているということで、生きている以上は筋肉の発達は起こりうる。理想の身体になれるかは分かりませんけど(笑)、発達は起こります。


-- トレーニングと栄養と休養。山本さんは休養をどのようにされていますか?

筋肉は休んでいるときに発達しますから、休まないとまったく意味がないです。発達の刺激、スイッチを押しているだけになりますから、睡眠や休養、血流を良くする半身浴などはきちんとした方がいいですね。


-- 現在、どのように食事に気を使っておられますか?

現役時代は気を使っていましたけど、いまは比較的楽にしています。ただ体脂肪があまり増えすぎないように、2週間好きに食べて2週間控えるというサイクルにしています。たんぱく質は肉などから、一般的な人よりは多く摂っていると思います。


-- トレーニング後、疲れている部分にどのように対処したらよいでしょうか?

その日にトレーニングをした場所を伸ばしてあげるといいです。トレーニング前にストレッチを行うとその種類によっては筋力が低下すると言われていますが、トレーニング後に行うのは問題ないので、しっかりやった方がいいですね。スポーツ選手も筋肉や関節をケアしてどう守っていくか、どう栄養素を摂るかが大事です。


-- 筋肉と同様に関節や腱などは発達するんですか?

靭帯は血行がほとんどないので発達しないんですけど、軟骨と腱は発達します。


-- 運動中や睡眠中につってしまうことがあるのですが、対策を教えてください。

筋肉が収縮するときはカルシウムイオンが筋肉に働きます。収縮後にカルシウムイオンが筋小胞体というところに戻ることで筋肉が緩みます。

ただ、筋小胞体に戻るのに必要なマグネシウムが足りないと、カルシウムイオンが戻れなくなる。つまり、筋肉がずっと緊張しっぱなしになるんです。そうするとつってしまう。

マグネシウムの不足がつる原因になるわけです。食生活でマグネシウムというと、バナナ、海藻類、葉野菜に含まれるのですが、日本人のマグネシウム摂取量は非常に足りない。
カルシウムはホエイプロテインに含まれているので、プロテインを飲んでいる人はカルシウムが足りていることが多いです。

ただマグネシウムが足りない状態だと筋肉が収縮しっぱなしになってつりやすい。ということで、マグネシウムの不足が1つの原因だと思います。


-- 長生きに関して最近の研究はいかがでしょうか?

書いた本の「ナイアシン(ビタミンB3)」の項目で書きましたが、最近、ナイアシンの代謝物質に寿命を延ばす効果が期待されるようになりました。

NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が酸化されるとNAD+になり、老化に関わっているのではないか言われています。だからNADを使ったアンチエイジングが考えられるわけですが、NADは摂取してもすぐに分解されてしまうので、体内でNADになる前駆物質「ニコチンアミドリボシド(NR)」を摂らせるとマウスの寿命が延びたという実験結果があります。

人体で研究する環境にはまだない状態ですが、長寿に関係するかもしれないと言われています。


-- サプリメントに応用される可能性はあるんですか?

そうですね。疾病に対して直接効果があるものはサプリメント(健康食品)に使えないんです。だから、皆さんに栄養についてもっと知ってほしいですね。食事から十分な栄養を摂るのもありですが、サプリメントから摂った方が効率的であるのは重視していただきたいです。これも本に書きましたが、妊娠中は葉酸をサプリメントで摂るように厚生労働省も近年呼びかけるようになりました。
食事からは摂りきれない栄養素があると政府も認め始めています。食事で摂るのは大事でも、それだけでは100%は満たせないこともあります。この点も、自分が発信したい、栄養学の本をまとめた背景ではありますね。



-- トレーニングでシューズのこだわりは何かありますか?

自分が使っているのはリフティング用のシューズです。かかとが硬くて高くなっている方がスクワットでもデッドリフトでもやりやすいですから。自分自身は、ふだんは近くの街ジムでトレーニングしています。


-- 1つの種目を追い込まれる派でしょうか、多種目をやられますか?

1種目は1セット、2セット程度しかやらず、それを2種目、1つの部位につき2種目3種目ですね。多くて。全身は1日でやってしまい、全身を2分割して週2回というのもあります。A→B→A→Bという感じで。全身行う場合はだいたい10種目くらいですね。1種目を2セットすると1日20セット、1時間くらいで終わる感じです。


-- 軽く聞こえますが、扱われるのは結構な重量ですよね。
はい(笑)

-- 1時間でその身体が維持できるんですね。いちばん大切なのは姿勢ですか?
1セットでちゃんと追い込むこと。101の刺激を与えられるように、トレーニングがうまくなるほどそれができるようになります。逆に初心者の人だと1セットでちゃんと追い込むことができないので、多めの量が必要になりますね。

□ 様々なクライアントを持つトレーナーとして

-- 2014年に設立されたBFRトレーナーズ協会に所属され(Blood Flow Restriction:血流制限)、トレーナーとして多くのクライアントを担当しておられます。

健康を管理したい、日常生活で階段を楽に上りたいという60、70代の方もいらして、みなさん長続きしています。アスリートのようにハードに行う必要はないので、それぞれにあわせてトレーニング内容を構成していければと思っています。トレーニングによって多幸感が得られ、筋肉が鍛えられていくのであればいいと思います。


-- トレーニングをする人に、何かアドバイスはありますか?

記録をつけましょう、でしょうか。
ちゃんと記録をつけて、自分がうまく伸びているのかどうか確認して進めるのが大事だと思います。毎回適当にしても伸びているのか分かりませんから、ちゃんと記録をつけて、今のトレーニング方法や食事が正しいかどうか、効果を出しているかどうかを数字でしっかりとと把握する。正しければ続ける、伸びていなければ何か問題があるという感じで、自分の状態を見極めることが大事だと思います。


-- トレーナーとしていちばん気をつけていらっしゃることは?
自分自身がそれなりの身体をしていないと説得力がありませんので、しっかりと筋肉があって体脂肪は多くない状態を常に保っておきたいなと。これから何十年経ってもそうしていきたい。まずは説得力のある身体でいたいですね。


-- ありがとうございました。
(〆)


最新刊
『アスリートのための栄養学 上下』(NextPublishing=ネクストパブリッシング)
など著書多数。

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