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スポーツと視覚 ~動体視力を鍛える~#3 一般社団法人日本スポーツビジョン協会代表 スポーツドクター 真下一策

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掲載日:2018.09.21
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日本最大級のスポーツ・健康産業総合展示会であるSPORTEC 2018内にて開催された、一般社団法人日本スポーツビジョン協会 代表 真下一策氏による「スポーツと視覚 ~動体視力を鍛える~」の講演をレポート!

動体視力は鍛えられるか

まずは速く接近してくる目標を見る、KVA動体視力。
こちらは視力と深い関係があるので、視力を矯正してあげれば自動的にKVA動体視力は向上します。それに関しては我々も経験しておりますし、そのようにアドバイスもしております。

次に、早く接近する目標を見ること。これを繰り返してください。それによってKVA動体視力が良くなったという実験報告がございますが、それでもKVA動体視力が静止視力を上回ることはございません。

次に、横に動く目標を見るDVA動体視力のトレーニングでございます。
ポイントは見た瞬間の分析力と、目を大きく速く動かすということなのですが、見た瞬間の分析力と目を大きく速く動かすこと、両方とも脳の作業です。

というわけで、それに対するトレーニングを行います。
速く動くものに対する分析力を鍛えるには実際に速く動いているものを見るしかありません。自動車や動くボール、あるいはスクリーンを速く動く指標。これらを何回も見て無意識の分析力を鍛えるんです。

もう一つ大事なのは、眼球をスムーズに大きく動かすこと。指を動かして目で追う運動とか、電車の中から駅のホームの駅名や掲示板、電柱等を目で追うことも良いです。
ではここで、「指フォーカス運動」というものをやってみましょう。

指フォーカス運動

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拳を握って両方の手を肩の高さに上げ、肩幅より少し広いくらいに開きます。次に親指を立てます。

まず左の手の親指の爪を見ます。見にくければ水性ペンで目印をつけても良いです。次の瞬間、右の親指の爪を見ます。顔は動かさないように目の動きだけで左、右、左、と続けます。これをだんだん早くやります。左右左右左右…。

このとき、ただ速く動かせばいいというわけではありません。ちゃんとどこかにフォーカスをしてください。
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同じように次は上下です。
上、下、上、下、上下上下…。このまま斜めも同じように行います。
たぶん皆様、上下は大変難しかったのではないかと思います。

左右の目の動きは、2つの筋肉で動かすことができる。ところがまっすぐ上下だと、4つの筋肉が同時にうまく働かないとまっすぐ動かないんです。
斜めになりますとさらに増えて6つの筋肉が同時に働く必要があります。

なので左右は比較的簡単ですが、上下や斜めになると段々難しくなるというのがお分かり頂けると思います。

これらは脳のトレーニングで、筋肉に対するトレーニングとは違うものです。トレーニングによって新しい神経回路ができる否かであります。筋肉に重い負荷をかけて太くしていく通常の筋力トレーニングではありません。

脳の回路を作るトレーニングはやらないと効果は期待できませんが、効果はやってみないとわからないというのが特徴です。具体的に何が影響するかはわかりませんが、成果が出やすい人とそうでない人もいると思います。
脳の中のグルコースの量を測りますと、年齢的に変化がみられます。

グルコースは、脳内で活発にシナプスを展開する時に多くなります。このグラフによりますと、10歳くらいをピークに低下して新しい神経回路を作ることがわかります。すなわち、この10歳前後の時期に感覚的なことやの脳のトレーニングが最も効果が上がりやすいということがわかります。
筋肉に関しては思春期を過ぎて男性ホルモンが出ないと筋力トレーニングも効果は出にくいですが、視覚や思考の能力については小学生の時期が勝負でございます。

そのために小学生の年代をトレーニングのゴールデンエイジと呼んでいるわけでございます。
動体視力のトレーニングはゴールデンエイジに最も効果がございます。では、中高年の場合はどうか。

確かに中高年では新しい神経回路作りは大変困難です。
しかし、若い頃に外遊び、あるいはスポーツを通じて回路ができている人もいます。しばらく使っていなくて錆びついてしまった回路だとしても、その痕跡があればこういったトレーニングによって蘇る可能性がありますので、若さを取り戻すためにも見る力を鍛えて頂ければと思います。

最後に、スポーツに大切な視覚の8つの測定を紹介しておきます。
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本日はそれぞれの各項目について詳しくお話はできませんが、大体これらの項目の評価基準は今までに我々が分析した日本人選手3500名程から算出したものであり、我々の研究成果は日本臨床スポーツ学会、あるいは日本体力医学会をはじめとした学会にも発表しております。

我々はこのスポーツビジョンを、「見る力の基礎体力測定」と位置づけており、見る力を客観的に測定することで、お互いの能力を比較したり、同じ人を経時的に追跡するということが可能でございます。

この検査は色々な競技団体で利用されていておりまして、プロ野球や格闘技の日本代表チーム等で検査とアドバイスの実績があり、その効果は確実に上がっています。
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検査結果は、各項目において5点を満点とする表とレーダーチャートで表して報告を致します。
5段階評価で8項目ありますから、全部で40点満点です。この合計点でその選手の視機能レベル、各項目の得点でその選手の視覚の特性を判定します。今まで3000名以上測定しましたが、未だに40点満点を出した方はおりません。

我々の経験では、球技で一流選手になるには合計で32~33点が必要で、しかも弱点のない視覚が要求されます。
これまでの検査での最高得点は39点でありまして殆ど完璧といえます。
それを出したのは今はどこかのチームで監督をされている卓球のオリンピック選手、それとプロ野球の選手の両名です。

優秀な選手は弱点なく全体的に良い視覚を持っている

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このグラフは、スポーツビジョン検査成績の合計点と競技力を比較したものです。
縦軸はスポーツビジョン検査の合計点、横軸のAはレギュラーやスタメンとして使われることが多い選手、Bは交代要員として使われることが多い選手、Cは公式戦では殆ど出場せずにベンチオーバーになることが多い選手です。

これらの選手のスポーツビジョン検査成績の合計を比較してみると、Aランクの選手の視覚能力が高いということがわかります。それ以外にも、全ての検査項目でAランクの選手の視覚能力が上位にあることがわかりました。

すなわち優秀な選手であるAランクの選手は、弱点のない全体的に良い視覚を持っていて、それが優秀な競技力を支えていると言えます。
スポーツビジョン検査をまとめます。

①スポーツビジョン検査は「見る力」の基礎体力測定
②「見る力」には個人差がある
③競技力の優秀な選手は優秀な「見る力」を持つ
④優秀な「見る力」は、優秀な選手になるための「必要条件」だが、「十分条件」ではない。「見るスキル」が大切


見るスキルとは何かと言いますと、何を予測しながら見るか、見えたものから何を考えるかなどの、要するに視覚の活用法です。
もっと言うと、どうに視覚を使うかという一種の頭の良さ、それが必要になります。視覚の基礎と、見るスキルの両方が揃って優秀な競技者が誕生します。

本日のまとめ

①優秀な選手には優秀な「見る力」が大切
②優秀な「見る力」のほとんどは後天的に獲得された能力
③それらの能力の多くはゴールデン・エイジに獲得される
④中高年では、新しい回路はできにくいが昔あった回路がよみがえる可能性がある
⑤子供の時に目を使う外遊びやスポーツを!!


本日は詳しくお話できませんでしたが②の優秀な「見る力」に関しまして、それらの能力の多くはゴールデン・エイジに後天的に獲得されたことが多いのです。

中高年では新しい神経回路ができにくいのですが、昔使っていた回路が蘇る可能性があります。そのためには⑤の「子供の時に目を使う外遊びやスポーツ」をやって頂きたいのです。

そうすることにより、昨今低下していると言われている子どもの見る力が上がります。
子どもの見る力が上がれば、スポーツ中の事故とか家庭内の事故、学校内や交通事故も減らすことができます。

もう一つは、皆でスポーツをやることでその中から飛び抜けた動体視力や距離感を持った子が出てきます。それはアスリートに育てましょう。

先程の中高年の例のように、子供の時に目を使う回路をしっかりと作っていれば、歳をとっても効果が続くので、交通事故、あるいは家庭内事故を減らすことができる可能性が大いにあります。子供の時にぜひ、目を使う遊びやスポーツをして頂きたいと思います。

スポーツビジョン協会では毎年8月に東京ビックサイトでスポーツビジョン研究集会や講習会を行っております。

研究集会はスポーツビジョンに詳しい人の集まりでございまして、特別講師を招いて講演を聞いたり、いろいろな大学の一般演題が揃い、それらを発表して意見交換を行うもので、誰でも参加が可能です。

もう一つ、スポーツビジョン講習会というものをやっておりまして、今回のものより少し詳しくお話をさせて頂いたり、スポーツビジョン測定をすることをしておりますので、両方ともぜひ参加をして頂ければと思います。

少々駆け足になってしまいましたが、本日はこの辺で終えさせて頂こうと思います。ご清聴ありがとうございました。