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肩こりの原因と予防策 / 部位別コンディショニング&ケア

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掲載日:2015.06.05


今回はトレーニングを行っているいないに関わらず不調を訴える方が多い「頸(首)」におけるセルフコンディショニング&ケアについて解説していきます。

肩こりや頭痛などは最も多く遭遇する症状ですね。いったいそれらを引き起こす原因は何なのでしょうか?原因を考えたとき、パソコンを叩けば情報が簡単に手に入るようになった現代のネット社会です。注意をしなければ無責任に流された情報によって誤った認識をしてしまうことがしばしばです。

一方、医療機関にかかれば正しい情報が得られるのでしょうか?それもYESとは言い切れません。なぜなら医療機関で肩こりを克服させることは出来ないからです。肩こりという日常的に遭遇する症状すら実は認識が様々で全く整理・統一されていないというのが実情だからです。

ストレートネック、神経の圧迫、頸椎のズレ、骨盤のズレetc…本当なのでしょうか?整形外科や接骨院、またはネット上で言われている原因を冷静に紐解き、皆さんの長年のご不調が回復へ向かうきっかけになれば嬉しく思います。


まずは構造を知ろう




まずは簡単に脊柱、特に頸椎の構造を見ておきましょう。

脊柱と呼ばれる背骨の柱は7個の頸椎・12個の胸椎・5個の腰椎・1個の仙骨・3〜5個の尾骨から出来ています。そして通常はそれぞれにある彎曲を呈して並んでいます。頸椎と腰椎はお腹側に(前彎)、胸椎と仙骨・尾骨は背中側(後彎)に彎曲しています【※図1】。

背骨を1つ取り出して上から見ると椎孔という穴が開いています【※図2】。これが縦につながると一つの管(脊柱管)になってここに脊髄という太い神経の束が入っています。

背骨の上下間は椎間板という軟骨のクッションで強力につながっていて、さらに左右1対の関節でつなげられています。特に胸椎には肋骨、腰椎・仙骨部には骨盤があり安定感を増しています。そして太い筋肉や広い筋肉で周辺を覆い、靭帯と共にさらに安定感を作り出しています。

しかし頸は太い体幹部に比べて細く、不安定に見えます。しかも、重量5〜6㎏もある頭を載せて支えています。



それには少し頸椎には他の部分と違った秘密があることで可能となります。頸椎には「ルシュカ関節」と言って、頸椎上面の両端に少し出っ張った部分があり安定感を増しているのです【※図3】。ちょうどアルミ製の灰皿を重ねたような状態になっていて、非常に安定します【※写真1】。

もっと極端な言い方をすれば、頭の重みが上からかかった方が、さらに重なり合う力が強くなって安定するということです。寝違いは立っているときには起こりませんからね(笑)。イメージとは違うかもしれませんが、寝ている時ではなく立って頭の重量を真芯で受けている時が最も頸は安定するのです。

アフリカやアジアの一部で残っている頭上運搬する人の写真を見たことがありませんか?10〜20㎏もの水瓶を頭上に載せて運搬するその地域を調べた疫学調査では、なんと頸の疾患がほとんどなかったそうです。それだけの重さを運ぼうと思えば、頸部の軸受重心上に頭の重心が無ければあっという間に水瓶は落ちてしまうことでしょう。絶妙に重心を合わせることで、頸の安定性は格段に上がり無駄な筋緊張が起こることもないのでしょうね。凄いと思いませんか?

また、先ほど背骨の上下間を椎間板という軟骨で繋いでいるというお話をしましたが、頸椎の1番目と2番目の頸椎間には椎間板がありません【※図4】。その為、1番と2番の間では大きな可動性を持っています。つまり大きな動きを作りながらも安定感を作り出せるように上手く出来ているのですね。しかし、この場所には頭に関係する神経や血管がたくさんありますので、大きく動きながらも頭を支え、大切な神経や血管を守るわけですから、この場所での不具合は頭や顔面部などに大きな影響を与えると考えられます。


何故起こる?〜肩こり〜


トレーニングでは筋肉に効率よく、いかに大きな負荷を安全にかけるか?ということが重要になります。しかし日常生活では、いかに効率よく負荷を分散していくのか?つまりいかに省エネ状態で生活をしていくかがポイントとなります。床から重たいものを持ち上げるのに上腕二頭筋だけで持ち上げるより、その他の筋肉も動員して効率よく持ち上げた方が楽に長く、そして強く行えるものです。ただし、省エネは安静ということではありません。

頸での“省エネ”とは、頭の重心が頸椎の重心軸にしっかりと乗っかっているために、前後左右の筋肉がバランスのとれた自然な緊張だけで十分に頭を支えていられる状態です。ズバリ肩こりは、この省エネ状態から外れてしまった時に起こるものなのです。そしてそれが長時間ならなおさらでしょう。

もし、下向き加減でスマホやパソコンを操作していたとしたら?頭の重心は頸の支えの重心(軸受重心)よりも前に移動します。しかも頭の前後径が短い日本人は元々頭の重心が少し前方にありますのでその影響は大きいはずです。そのため、頸の後ろを支える靭帯は欧米の人々に比べて厚みがあります。しかし靭帯だけで支えきれない頭の重みは頸の後ろ側の筋肉を緊張させることで頭が前方に落ちないように支えているのです。私たちの筋肉(骨格筋)は心臓の筋肉(心筋)と違って絶え間なくずっと働き続けることが出来ません。

たとえ軽い3㎏のダンベルでも、アームカールで肘を90度に固定した状態で1時間・・・となると大変です。数時間ともなるとさぁ大変です。それと同じことが頭を支える頸の筋肉で起こっていると考えてみてください。

非常に単純で簡単です。しかしこれが肩こりの主な原因なのです。ですから、肩こりやそれに伴う頭痛を解消することは、それほど難しいことではないことがわかります。

① 頸の軸受重心から頭の重心がずれた状態を作らない(スマホやPCを操作するときの前かがみ姿勢に気をつける)
② それを長時間続けない。または、こまめに休憩を取る
③ 頸や肩、背中の筋肉をトレーニングし自らの許容値をあげる(耐えられる身体を造る)


たったこれだけです。つまりいくら医療機関にかかろうとも根本的な解決策はそこにはないのです。


ストレートネック?




ストレートネックについても少し触れておきましょう。私の院に訪れる方の中には「私はストレートネックだから肩こりが酷くて・・・」と病院で余命宣告でもされたかのような雰囲気でお越しになられます。しかし本当にストレートネックが肩こりの原因なのでしょうか?もしそうだとしたら、ストレートネックと診断した病院がそれを助長する牽引療法を行うことにも私は全く理解が出来ません。

こんなやり取りがあったとしましょう。

患者Aさん「この3〜4日仕事が忙しくパソコンを長時間使うことが続いていまして。肩こりが酷く、頭痛がしてきました。」
Dr.「それでは頸のレントゲンを撮ってみましょう。」
患者Aさん「先生、どうでしたか?」
Dr.「あ〜ストレートネックですね〜」
患者A「えっ!そうなんですか?だから肩こりが酷くなったんですか〜。」
Dr.「そうだね。今日は湿布とビタミン剤、それから牽引治療をしましょう。」
患者Aさん「はい。ありがとうございます。」


ここで冷静にそして単純に考えてみてください。3〜4日前から急激にストレートネックになったのでしょうか?寝違いなどでもひょっとすると同じようなやり取りがあるやもしれませんね。ストレートネックであろうがなかろうが、たまには肩こりや寝違いは起こってもおかしくありません。

頸とは関係ありませんが、うがいをしようとほんの少しだけ前かがみになった時、ギックリ腰になり病院に行ったら腰椎椎間板ヘルニアだと診断された・・・なんていうのもよく似たケースです。うがいで椎間板が破れてしまったのでしょうか?それが事実なら怖くて何もできませんよね。

実際、そう診断された方々は何をするのも負担をかけるのを避けるように運動をやらなくなるという最悪のルートに乗っかっていくのです。私はこれを「呪い」と呼んでいます(笑)。なので、たとえストレートネックと診断されても、驚くことはありません。まずは、原因となった日常生活上の過ちを正し、同じことでは症状の出ないくらいの強い体造りをすれば良いのです。

いかがだったでしょうか?医療機関での診断は非常に大きな影響力を持っています。それゆえ、「呪い」のように自分の身体を不安でがんじがらめにしてしまい、治る機会を失わせているケースを目にすることの多いこと。そうならないためにも、自分の身体を人任せにするだけではなく自ら自己の身体を知り、克服するための行動を自ら起こすべきなのです。

ということで、次回も引き続き「頸まわりの不調」〜その2〜をお送りします。

  • 中山 辰也(なかやま・たつや)
    中山予防医学研究所

フィットネス&ボディメイク情報誌
[ PHYSIQUE MAGAZINE 005 ]

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