体力測定結果をモチベーションに繋げる 筋肉伝道師 宮本直哉 (2/2)
掲載日:2015.06.05
小野寺 講義内容は?
宮本 初回の講義では筋トレの必要性やメリットを生理学や解剖学に基づいて分かりやすく伝えるようにしています。石井先生の本も参考にさせてもらっていますよ。ミーハーなのでその本に石井先生のサインもちゃっかりサインしていただいております(笑)。
小野寺 筋トレのメリットというと?
宮本 競技能力向上や障害予防、それに、体の使い方が良くなる、けがが少なくなる、効率よくエネルギーが出せる、などなどです。内容を理解しているか確認するために毎回、小テストも行いますよ。できない子やしない子にはペナルティーとしてレポートを課します(笑)。
小野寺 結構ハードですね(笑)。実技はどのような内容なのですか?
宮本 初回はベンチプレス、スクワット、それに自重でのエクササイズとしてプッシュアップ、クイックプッシュ、シットアップ、クランチ、ジャンピングスクワット、などを教えます。自重でのエクササイズは学校でトレーニングできない時に自宅で行うメニューを組めるようにするためです。
メニューは上半身の押す・引くと脚の3分割で全身をまわして、1回あたり30分弱の内容です。2回目からは3年生になったら自分でトレーニング処方できるように、エクササイズへの慣れや体のでき方をみながら、様々なエクササイズを教えていきます。
こういった内容の座学と実技を月に1回ペースで行っているのですが、人数次第で、例えば東海大甲府高校野球部なんかは部員数が160人なので、数日間かけて行う事もあります。
小野寺 測定についても教えて頂けますか。
宮本 測定は年に3回のペースで行っています。講義と実技を3回行って、4回目が測定といった感じです。もともと私自身が高校時代にレスリングをしていた頃に筋トレをするようになって、他の人の記録が気になっていたんですよ。パワーリフティングをしていたころは月刊ボディビルディングに掲載されて あるランキングが楽しみでしかたなかったですね(笑)。
その経験が原点にあって、生徒たちの興味を喚起していくために測定してランキング制にしました。弊社契約選手とはもちろん、現在プロ野球、プロサッカーで活躍中の高校生時代の測定記録とも比較する歴代ランキング等、ゲーム性を持たせて行わせています。リアルタイムで現在のランキングが弊社HPから観覧できるように工夫をこなしております。
また、スクワット160kg 、ベンチプレス100kg、デッドリフト200kg、クイックリフト100kgをそれぞれ挙上した場合YouTube動画で挙上シーンを配信、トロフィー&プロテインを進呈するなどして生徒のモチベーションを上げるようにしております。
これら全ては、自分が選手の立場で考え、自分が選手だったら何をしてくれたら筋トレに夢中に取り組むことができるか?というものを全て実行致しております。これをしてから、選手の筋力レベルが物凄く上がりましたね。おかげで私のお小遣いが〜、強くなって貰うことが本望なので良しとしましょう(笑)
小野寺 測定種目は?
宮本 基本的ですよ。ベンチプレス、スクワット、デッドリフト、クイックリフトの筋力系4種目と30・50mダッシュ、長座体前屈、立ち幅跳び、反復横跳びの体力系4種目に体組成測定です。
小野寺 うーん、すごいですね。これらの測定データが4,000人分、しかも年に3回ペースで3年分あって、競技能力とも結びついているのはものすごく大きな価値がありますね。このデータと比較できるだけでも実際に測定をしてみると全国の高校運動部の部員と指導者にとって、ものすごく役立つのではないでしょうか。
宮本 はい、ぜひ役立ってもらえたらと思っています。甲子園に出るレベルの野球部の選手の身体能力は高いです。指導を始めてデッドリフトのフォームを作る練習を2ヶ月間行ってから初めての測定で210キロを上げる子もいました。
小野寺 高校生で初の測定で210キロですか!すごいですね。持っている才能が違いますね。
宮本 そうですね、競技特性の違いもあるようで、30m走や立ち幅跳びは野球部の子供たちの方がサッカー部の子供たちよりも良い記録を出している傾向があります。
小野寺 それも面白いですね。他にもいろんな角度から解析できるかもしれません。
宮本 当たり前の事ではありますが、最初に弱い子の方がすごく伸びます。最初はベンチプレス20キロという子もいるので、伸び率はめちゃくちゃ高くなります(笑)。体ができて、パフォーマンスが上がって、レギュラーを獲得した子もいます。逆に最初からパフォーマンスが高い子はあまり筋トレに熱心でないこともありますね。
小野寺 なるほど。筋トレしないでもできちゃうとそうなりがちですね。
宮本 高いレベルを目指している子は顔つきが違いますね。チームスタッフにどの子がレギュラー?と聞かれても顔を見るだけで当てる自信がありますね (笑)。そういう子はトレーニングも真剣に取り組んでいます。
それに、トレーニングフォームが良い子はスポーツフォームも良いんです。特にスクワットが顕著ですね。逆に競技動作は上手くても基本的な身体動作、例えば、ジャンプやマット運動などが下手だったりする子もいます。
ですので、フリーウェイトでの筋トレには基礎的な体の使い方を身につける効果もあると考えています。ベンチプレスの形が上手い子は腕立て伏せも上手いですよ。フリーウェイトで身につけてから、自重でのトレーニングを行う方が体の使い方を身につけやすいです。
個々の体力測定結果をデータ化して、その結果を競い合わせて、良い結果が出たときには誉めてあげることで、選手たちのモチベーションを高めている。 上の写真は野球部の選手で、1年生時(左)と3年生時(右)の比較写真。筋トレ効果は一目瞭然だ。
小野寺 体が変わってくるまでにどれくらいの期間がかかりますか?
宮本 2、3ヶ月もきちんと取り組めば目に見える効果が現れてきますが、面白いところでは、野球部だと1年目の冬場を明けたときが一番変化が大きいです。そうそう体ができてくると子供たちはトレーニング中に脱ぎはじめるようになります(笑)。
小野寺 分かりやすいですね(笑)。今の時点で指導されている運動部はいくつあるのですか?先ほどの中学校での指導は別にして。
宮本 野球部では今年は5チームです。そのうち、甲子園出場レベルが2チームで、県大会ベスト8クラスのチームもあります。サッカーは6チームで、先日も岩手県大会で遠野高校が優勝し全国高校サッカー選手権大会出場を決めました。同じく県大会で優勝の可能性があるのが栃木県の佐野日大高校です。
トレーニングに外部指導者を呼ぶのは上位を狙って意識の高い学校が多いのですが、中にはそれほど有名ではない学校もあります。でも、名も無いチームには中学時代に活躍した選手はなかなか集まらないのですが、素直にトレーニングに取り組むので伸びますね。
小野寺 トレーニングや練習、勉強もそうだと思いますが、伸びるのは素直に取り組むところが多いでしょうね。最後にこれからはどのような事に取り組んでいかれたいと考えておられますか。
宮本 筋トレの輪を広げていくために、トップクラスの選手が基礎的な筋トレに取り組んでより伸びる事例をもっともっと作っていきたいと考えています。中学、高校時代に指導した子供たちが筋トレにしっかりと取り組んで、世界トップクラスの選手に育って活躍する姿を見れたら最高です。それが、普通の子たちにも広がってくると思いますので。
小野寺 最高ですね!本日は貴重なお時間を長時間頂きまして、ありがとうございました。
小野寺コラム
宮本さんの活動は社会的にとても有意義で価値があり、ビジネス的にも大きな価値を生んでいける可能性も秘めている。
私自身、中学高校の運動部は筋トレを学ぶのに最適なタイミングだと考えてきている。年代的に効果が得られやすいという事もあるが、これほど自分の体に対して真剣に取り組む時は他にはなかなか見られないと思うからだ。ただ、宮本さんも指摘しているとおり、技術練習には意欲的に取り組むが、トレーニングは嫌々だったり、さぼりの時間になっている事が多いと思う。
しかし、体力レベルが低く練習についていけなかったり、競技レベルに体がついていけずに頻繁に怪我をしたり、筋量不足でいつも全力をださなければならず疲労が蓄積していたりなど、スポーツ競技力を高める重要な要素の一つが体力、それも筋肉量であるのは間違いない。
教育現場でもニーズがある。部活動を取り巻く状況が教育の現場でも問題になっているのだが、その一つに顧問の先生による競技の指導がある。競技経験が無かったり、スポーツの指導経験に乏しい事が多い。また、競技経験があって技術的な練習は指導できる場合でもトレーニングや栄養の知識・経験はほとんどなかったりする。
その一方で、部活動の教育効果を明確にしていく事が教育指導要領でも求められている。研究テーマの一つが運動部を中心とする部活動である教育社会学者の西島央(首都大学東京准教授)と教員免許更新講習(※)で部活動の顧問の先生たちにトレーニングや栄養の基本的な知識と実践を行っているのだが、この目的の一つに部活動で行っていたトレーニングがその運動部を引退して競技を離れてからも役立つ経験になり得ると伝える事にある。
30歳を過ぎて体のラインが気になってきたタイミングで何をするか、肩こりや腰痛に悩まされている時にどうすれば良いのか、40歳を過ぎてメタボと診断されたらどうしたらいいのか、50歳を過ぎて膝や肩が不安になってきたらどうすれば良いのか、老後も自分で動き回る事のできる元気な体であるためにはどうしておけばよいのか、全て筋肉に答えがあると言っても過言ではないだろう。
筋肉量を維持・増加させる、筋肉の柔軟性(関節可動域)を増やす、心肺機能を維持・向上させる、これらはそれぞれ筋トレ、ストレッチ、有酸素運動に他ならない。この事を自らの体験として学んで、自立的に行えるようにするのは単に競技力を高めるにとどまらず、世界で一番高齢化の進んでいる日本の抱えている健康に関する諸問題の解決につながる可能性がある。
宮本さんの活動は社会的にとても有意義で、自分でトレーニングをできるように指導していくという理念を共有してより大きな組織で取り組むべき事業だと思う。また、測定データを積み重ねているのも、すごく大きな価値がある。この領域を専門としている研究者と共同研究プロジェクトを立ち上げるのも有意義だし、中高生の発育・発達に関する情報提供としても役立つし、健康食品などのメーカーとの商品開発に役立つかもしれない。大きなハードルがあるが、在学中と卒業後の健康診断結果と紐付けて中高年期までフォローしていく事ができれば、とても大きな価値を生んでいくだろう。
宮本さんがターゲットで行われてきている活動は社会的にとても有意義で、更に大きな価値を生んでいける可能性を秘めている。
宮本さんの活動は社会的にとても有意義で価値があり、ビジネス的にも大きな価値を生んでいける可能性も秘めている。
私自身、中学高校の運動部は筋トレを学ぶのに最適なタイミングだと考えてきている。年代的に効果が得られやすいという事もあるが、これほど自分の体に対して真剣に取り組む時は他にはなかなか見られないと思うからだ。ただ、宮本さんも指摘しているとおり、技術練習には意欲的に取り組むが、トレーニングは嫌々だったり、さぼりの時間になっている事が多いと思う。
しかし、体力レベルが低く練習についていけなかったり、競技レベルに体がついていけずに頻繁に怪我をしたり、筋量不足でいつも全力をださなければならず疲労が蓄積していたりなど、スポーツ競技力を高める重要な要素の一つが体力、それも筋肉量であるのは間違いない。
教育現場でもニーズがある。部活動を取り巻く状況が教育の現場でも問題になっているのだが、その一つに顧問の先生による競技の指導がある。競技経験が無かったり、スポーツの指導経験に乏しい事が多い。また、競技経験があって技術的な練習は指導できる場合でもトレーニングや栄養の知識・経験はほとんどなかったりする。
その一方で、部活動の教育効果を明確にしていく事が教育指導要領でも求められている。研究テーマの一つが運動部を中心とする部活動である教育社会学者の西島央(首都大学東京准教授)と教員免許更新講習(※)で部活動の顧問の先生たちにトレーニングや栄養の基本的な知識と実践を行っているのだが、この目的の一つに部活動で行っていたトレーニングがその運動部を引退して競技を離れてからも役立つ経験になり得ると伝える事にある。
30歳を過ぎて体のラインが気になってきたタイミングで何をするか、肩こりや腰痛に悩まされている時にどうすれば良いのか、40歳を過ぎてメタボと診断されたらどうしたらいいのか、50歳を過ぎて膝や肩が不安になってきたらどうすれば良いのか、老後も自分で動き回る事のできる元気な体であるためにはどうしておけばよいのか、全て筋肉に答えがあると言っても過言ではないだろう。
筋肉量を維持・増加させる、筋肉の柔軟性(関節可動域)を増やす、心肺機能を維持・向上させる、これらはそれぞれ筋トレ、ストレッチ、有酸素運動に他ならない。この事を自らの体験として学んで、自立的に行えるようにするのは単に競技力を高めるにとどまらず、世界で一番高齢化の進んでいる日本の抱えている健康に関する諸問題の解決につながる可能性がある。
宮本さんの活動は社会的にとても有意義で、自分でトレーニングをできるように指導していくという理念を共有してより大きな組織で取り組むべき事業だと思う。また、測定データを積み重ねているのも、すごく大きな価値がある。この領域を専門としている研究者と共同研究プロジェクトを立ち上げるのも有意義だし、中高生の発育・発達に関する情報提供としても役立つし、健康食品などのメーカーとの商品開発に役立つかもしれない。大きなハードルがあるが、在学中と卒業後の健康診断結果と紐付けて中高年期までフォローしていく事ができれば、とても大きな価値を生んでいくだろう。
宮本さんがターゲットで行われてきている活動は社会的にとても有意義で、更に大きな価値を生んでいける可能性を秘めている。
※教員免許を取得してから10年毎に免許を更新するために修了しなければならない講習制度
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- 宮本 直哉(みやもと・なおや)
TARGT(ターゲット)代表
修斗プロフェッショナルライセンス(総合格闘技)取得するも故障により現役引退
以降はトレーナーとして中高生から一般社会人まで幅広く指導している
現在「ターゲット」にて、中・高等学校、大学、社会人アスリートの競技能力向上や一般社会人 中高齢者の健康増進を目的にしたレジスタンストレーニングを現地へ伺い、直接コーチングを行っている。
1968年 山口県出身
高校時代にアマチュアレスリングを始め、山口県大会、中国地区大会優勝
高校卒業後、自衛隊を経てボディビル、パワーリフティングを始め
1992年 ミスター山口ボディビル選手権大会優勝
1997年 全日本パワーリフティング選手権大会67.5kg級準優勝
1998年 アジアパワーリフティング選手権大会第5位
2000年 32歳という年齢を顧みず総合格闘家に転身
全日本サブミッションアーツレスリング65㎏級優勝
全日本コンバットレスリングオープン選手権大会69kg級優勝
東日本アマチュア修斗ライト級優勝
<指導チーム>
山梨県東海大甲府高校野球部、千葉県東海大望洋高校野球部、千葉経済大学高校野球部、栃木県足利工業高校野球部、茨城県科学技術高校日立野球部、栃木県佐野日本大学高校サッカー部、新潟県長岡向広陵高校サッカー部、岩手県盛岡市立高校サッカー部、岩手県花北青雲高校サッカー部、岩手県遠野高校サッカー部、東京成徳高校サッカー部、ミルマエフットボールクラブ(中学生)
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- 小野寺 正道(おのでら まさみち) パワーラボ代表 大学院博士課程在籍中にメディカルフィットネス施設の立上げに関わり、同ベンチャー企業でメディカルフィットネス事業担当取締役に就任。その後、独立して、IT企業、メーカー、人材会社、フィットネス事業者などで各種ヘルスケア関連の事業開発案件と産官学連携事業に従事している。
フィットネス&ボディメイク情報誌
[ PHYSIQUE MAGAZINE 004 ]
[ PHYSIQUE MAGAZINE 004 ]