パワーフォームを導入した「ベンチプレスを強くするためのトレーニング」(2/4)
掲載日:2016.02.09
【表2】ベンチプレスにおけるステップとそのトレー二ング
■パターン1のトレーニング方法
パターン1は、こちらの記事で紹介した基本的なトレーニング方法=トレーニングC(筋力・筋量アップ=地力アップ)を中心に行い、トレーニングCでつけた地力を活かせるように定期的に筋力アップ・神経系強化を目的としたトレーニングDを行うパターンです。
地力を上げるトレーニングCを重点的に行えるというメリットがありますが、トレーニングDをうまく行わなければ、トレーニングCでつけた地力をMAX重量を挙げる際に活かせないことがあるというデメリットがあります。
なお、トレーニングを行う頻度としては週に2回から3回が基本となります。
■トレーニングCでの目標回数の違いによるセットの組み方の違い
パターン1では6RMから8RMの重量に設定し、6回から8回狙いのセットを組む基本的なトレーニングを中心に行います。何回狙いでセットを組むかは自身の最もやりやすい回数、最も記録の伸びが良い回数を選択するのが通常です。
あらかじめ目標回数を決め、それに合わせてセット数やセットクリア条件を決めてしまい、セット重量以外を完全に固定にして継続してトレーニングを行います。
ただし、ここで注意しなければならないのが目標回数によってセット数、インターバル、セットクリア条件に違いがあるということです。6回狙いと8回狙い、たった2回の差ですが、この2回の差で大きくトレーニングの方法が変わってきます。
目標回数ごとのセット数・インターバル・セットクリア条件の目安を示すと【表3】のようになります。目標回数によるセット数の違いを見てみると、6回の場合が3〜4セット、9回の場合が2セットと、回数が少ないほどセット数が多く、回数が多いほと、セット数が少なくなっています。
回数が多いほどセット数が少なくなるのは、高回数でトレーニングを行うと1セット毎の疲労度が大きくなり、セット数が多くなると回復に時聞がかかり、次回のトレーニングに影響が出てしまうためです。
【表3】目標回数別セット数・インターバル・セットクリア条件の目安
インターバルの違いを見てみると、回数が少ないほどインターバルが短く、回数が多いほど長くなっています。これは1セットの疲労度の違いによるもので、すべてのセットに全力を出せる目安として、上記のようにインターバルを取ります。
最後にセットクリア条件ですが、これを守らないと基本的なトレーニングの範囲から外れたトレーニングになってしまうので、注意して設定する必要があります。
まずは、基本的なトレーニングの中でも基本となる、目標回数が8回の場合を見てみましょう。目標回数が8回の場合はセットクリア条件=「1〜3セット8回挙げる」となっています。セットクリア条件=「1セット8回挙げる」の場合は現在のセット重量=8RMにするのが目的で、「2〜3セット8回挙げる」場合は現在のセット重量=8RM以上にするのが目的になります。
セットクリア条件=「2〜3セット以上8回挙げる」の場合は、原則として1セット目(2セット目)が8回以上挙がりそうでも8回で抑えます。8回で抑えるということがどうしても嫌な人のためのセットの組み方にあたるのが、目標回数が9回、セットクリア条件=「1セット9回挙げる」になります。
目標回数が9回の場合は8回の時のようにセットクリア条件を「2〜3セット挙げる」にはしません。セットクリア条件を「3セット9回挙げる」にしてしまったら、基本的なトレーニングの範囲外である9RMという筋量アップ重視のトレーニングを行うことになってしまうからです。
このケースと反対になりやすいのが、目標回数が6回や7回の場合です。例えば、目標回数が6回の場合はセットクリア条件=「3〜4セット6回挙げる」となっています。3〜4セット同じ重量が挙がるのであれば通常は1セットは7回挙がるので、現在のセット重量=7RM以上にすることが目的になります。
こうなればセットクリアし、2.5kg重量を上げて同様のセットを組んだとしても、1セット目は6回は挙がるので基本的なトレーニングの範囲内でトレーニングを行えます。
しかし、セットクリア条件を「1〜2セット6回挙げる」にしてしまったら、セットクリアし、2.5kg重量を上げてセットを組んだときに良くて5回しか挙がらないはずです。そういった重量で4セット行ったとすると、5回→4回→4回→3回といったように、基本的なトレーニングとは異なる、筋力アップ・神経系強化のトレーニングとなっていまいます。
あらかじめそういった目的を持ったトレーニングとして行うのであれば問題ありませんが、基本的なトレーニングと勘違いしてそのようなトレーニングばかりを行っているようでは問題があります。児玉選手の考えでは、あくまでベンチプレスの記録を伸ばしていくには、地力を上げる基本的なトレーニングを重点的に行う必要があります。
セット数やインターバルに関しては、回復力の差などにより、上記の方法から多少外れてもかまいません。しかし、セットクリア条件に関しては上記の範囲内で、行う必要があります。これはパターン1だけでなく、すべてのパターンでのトレーニングC、基本的なトレーニングで言えることです。
■トレーニングDを行うタイミングと意味
パターン1ではトレーニングCを中心に継続して行い、定期的にトレーニングDにメニューを切り替えるわけですが、このトレーニングCをトレーニングDに切り替えるタイミングは、以下の3つがあります。
①4〜10週間サイクルでトレーニングCを行い、そのサイクル終了後
②トレーニングCである程度のセット重量の伸びが見られたとき
③トレーニングCでセット重量の伸びる傾向が全くなくなったとき
それぞれのタイミングによって、トレーニングDを行う意味も異なってきます。例えば、①はサイクル間での気持ちや体の状態の入れ替え、②は地力の伸びをMAX重量の伸びに生かすため、③はプラト一脱出のための手段といったように様々です。
なお、児玉選手も含めて、K'sジムではトレーニングを行うサイクルを決めている選手はほとんどいないため、②と③のタイミングでトレーニングDを行うことが多くなっています。
■MAX×1回×10セット法
それではパターン1でのトレーニングD、筋力アップ・神経系強化の力を引き出すためのトレーニング方法を紹介します。
ここでは児玉選手がトレーニングをはじめた当時から好んで行っていた、『MAX×1回×10セット法』を紹介したいと思います。この方法は名前の通り自分のMAX重量、またはMAX重量に近い重量で1回×10セットという形でトレーニングを行います。
ただし、今までトレーニングCのような比較的高回数のトレーニングを行っていた人が突然MAX重量を中心にトレーニングを行うのは無理があるため、【表4】のような形でトレーニングを進めていくことになります。
【表4】「MAX×1回×10セット法」の例MAX重量=150kg頻度=週2回
1週目の1回目は、ウォーミングアップ終了後にMAX重量-10kgという比較的軽めの重量で1回×10セットを行い、1週目の2回目は、1回目よりも5kg重量を上げてMAX重量-5kgの重量で7〜10セット行います。この最初の1週間は高重量に体を慣らす期間と考えてください。
2週目の1回目は、MAX重量-2.5kgで5〜10セット行いますが、このあたりから規定のセット数が挙がらなくなってくることがあります。そういう場合、重量を2.5kgずつ落として規定のセット数をこなすようにします。
2週目の2回目、ことからが本番で、MAX重量で5〜10セット行います。このときにMAX重量を更新できそうな感覚がなければ、3週目にも同様のセットを組んでMAX×1回×10セット法を終了。更新できそうな感覚があれば、3週目の1回自にMAX重量更新を狙うということでMAX重量+2.5kgの重量に挑戦。それを1セットでも成功させ、さらに更新できそうな感覚があれば、3週目の2回目にまたMAX重量更新を狙う。このような形でMAX×1回×10セット法を続けていくことになります。
基本的には3週目の1回目、第5回目に終わってしまうことが多いのですが、今まで自分の持っている地力を高重量で活かせなかった人や、トレーニングCである程度セット重量の伸びが見られた人の場合は、MAX×1回×10セット法で5kg以上記録を更新することもあります。また、3週目の1回固に終わってしまった場合も無意味で終わるわけでなく、刺激の変化によって、トレーニングDからトレーニングCに切り替えたときに記録が伸びてくるということもあります。
なお、パワーリフティングやベンチプレスの試合に出ている、出る予定のある人は、胸で止めて挙げる試合形式でMAX×1回×10セット法を行うようにしてください。
■トレーニングDを行う期間と注意点
トレーニングDを行う期間は、あくまでパターン1ではトレーニングCを中心に行っていくため長くて1ヶ月程度。先に紹介したMAX×1回×10セット法であれば、3週間から1ヶ月程度の短い期間になります。
ただし、このような短い期間であっても、今まで行っていたトレーニングと全く異なるトレーニングを行うため、急激に調子を崩してしまう人もいるでしょう。これがパターン1でのトレーニングDの難しい点になるのですが、ちょっとした工夫でほとんどの人が調子を崩さず、トレーニングDを行えるようになります。
例えば、トレーニングCで8回狙い×3セットでトレーニング、を行っていた人が、MAX×1回×10セット法を行ったとします。本来ならMAX×1回×10セット法だけでトレーニングを終了するところですが、その後にトレーニングCで扱っている重量の5〜1Okg軽い重量で8回×1セットだけ行います。
たったこれだけでトレーニングCを行っていたときの感覚を忘れなくなり、調子を崩さずにトレーニングDを行えるようになります。
[ ベンチプレス 基礎から実践 ベンチプレスが誰よりも強くなる(VOL.1) ]