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有名アスリートを多数育成した敏腕トレーナー 鎌田 貴

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掲載日:2015.06.05
  • 鎌田 貴(Takashi Kamata)
    プロアスリートのフィジカルトレーナーとして、幅広いジャンルのアスリートのカラダ作りを担う。ホンダレーシングの専属トレーナーとして、ロードレース、モトクロス、トライアルで20名を超える多くのライダーをチャンピオンの座に導く。また、女子プロゴルファーの宮里藍選手のフィジカルトレーナーとして、国内ツアーならびに初参戦時の米ツアーへ同行。現在もレーシングドライバー塚越広大選手のトレーナーを務める他、多くのプロスポーツ選手に加え、次世代を担う若手アスリートの育成にも力を入れている。

  • 小野寺 正道(おのでら まさみち)
    パワーラボ代表
    大学院博士課程在籍中にメディカルフィットネス施設の立上げに関わり、同ベンチャー企業でメディカルフィットネス事業担当取締役に就任。その後、独立して、IT企業、メーカー、人材会社、フィットネス事業者などで各種ヘルスケア関連の事業開発案件と産官学連携事業に従事している。

小野寺 今回はお忙しい中でお時間を頂きまして、ありがとうございます。体作り全般をテーマとした雑誌『PHYSIQUE』が出版されたのですが、多様な体作りをテーマとして実際に現場に携わられている専門家の方々から本物のトレーニング方法やその背景となる考え方などを一般の方々に伝えていきたいという企画から、縁あって私が対談の担い手として関わらせて頂いています。

鎌田 初めまして。こちらこそ、ありがとうございます。私の場合はモータースポーツやゴルフの選手が中心なので、あまり一般的とは言えないかもしれませんよ。むしろかけ離れているかも(笑)。

小野寺 いえ、むしろ一般的には車を運転する人やゴルフをする人の方が見た目を良くするためにジムで体作りをしている人よりはるかに多いですし、本当の意味での価値・関心も高いと思います。今回、GPライダーのフィジカルトレーニングを担当されている方がいると話を伺って、とてもおもしろそうだと感じました。私自身は見た目重視の筋トレを長年続けているんですけど、多少モータースポーツをしていた事もあるのでより一層。

鎌田 筋トレしてるっていう見た目ですもんね(笑)。

小野寺 鎌田さんの首の太さも尋常じゃないですね(笑)。さっそくなのですが、二輪のライダーや四輪のドライバーへのトレーニングってどういうことをされるのでしょうか?

鎌田 単純に言えば、車の挙動を感じる力を高めるという事です。情報を感じる体の感覚を高めるのですが、タイヤの潰れ具合を感じたり、フレームのしなり具合を感じたりといった能力を高めていくわけです。




小野寺 一般的な知識レベルというか、言葉としては何となく分かるのですが、具体的にもっと詳しく教えて頂けませんか。

鎌田 ボディビル的なトレーニングは筋肉に効かせるように動作しますよね、でも、他の多くの競技スポーツや一般的に体を動かす時は逆なんです。フィットネス的に言えば、走ったり、跳んだりといった動作もですが、体を上手に使って筋肉にはむしろ効かせない。と言うより、そもそも筋肉の動きは全く意識しない方がいいんです。

小野寺 筋肉の動きを意識しないというと・・・。




鎌田 私はゴルファーのトレーニングもみているのですが、ゴルフで言えば、パワーも大切ですがそれと同じぐらいクラブを上手に動かすのが大切ですよね。つまり、体のセンサーを使って体とクラブを上手に動かすという事なんです。

小野寺 いわゆる筋トレではなくて、身体機能を養う事を目的として、体を上手に動かす練習をするというところでしょうか。

鎌田 そうですね、それも力を抜いた状態でいかに力を発揮できるか、というところなんです。柔道みたいな競技だと分かり易いのですが、意識が筋肉にいって力を入れたままになると、すぐに腕が上がってしまいます。力のある選手が力を抜く事を覚えると切れも良くなるし、最後までパワフルに動けるようになるんです。

小野寺 負荷が筋肉に乗っている感覚を持つとすぐに効いてきますね。

鎌田 エンジンを大きくするだけの目的ならそれもいいと思います。でも、動作を伴う競技スポーツのトレーニングでは骨を動かすイメージです。骨を動かして、その結果として筋肉が動いていっていると、物理的な因果関係は逆ですけど、イメージはこの順番です。


バランスボール上での体幹トレーニング。
特に股関節と体幹部の回旋をターゲットにスタビライゼーションも狙ったダブルタスクトレーニング


小野寺 骨を動かすイメージで体を動かして、センサーとしての感覚器の能力を高めていく、という様な事ですね。もっと具体的に言えば、どんなトレーニングをすればよいのでしょうか。特に初めての人も多いと思いますし。

鎌田 オートバイでフルバンクしている時や車の旋回時など、体軸がセンターからどれぐらい傾いているかを感じ取る事は基本ですよね。他の競技スポーツや、日常生活動作でも全く同じです。高齢者の介護予防でも倒れないというところで体の傾きを感知するのはとても大切だと思っています。丹田を軸に体のセンターを作っていくんです。

小野寺 具体的にはどんな内容ですか?

鎌田 スクワットでセンター感を養っていきます。

小野寺 スクワットなんですか!

鎌田 自重と多少の負荷をかけた体軸を作っていくスクワットで、股関節から動かす様に意識します。あくまで、骨が動いているイメージで。

小野寺 F1マシンの加減速などを考えると、物理的にかなりの負荷がかかりますよね。

鎌田 そう、かなりの負荷がかかります。でも、例えば旋回時に首に負担がかかるからと言って、首の筋肉に効くトレーニングをすると体は効かせてしまうので悪循環に入ってしまいます。つまり『首にくる → 首を鍛える → 首にくる → 更に首を鍛える・・・』といった流れです。


バランスディスク上でドライビング姿勢を保ちながらのハンドル操作。
体幹スタビライゼーションと上肢の持久力強化を狙ったダブルタスクトレーニング


小野寺 なるほど、なるほど。よく分かります。

鎌田 体軸トレーニング、体幹トレーニングと言って体の動きを固めるような運動はNGで、いわば崩して戻すのを繰り返す動きですね。ラダーを使ったサイドステップなんかもそうですよ。単に足を動かす練習ではなくて、体軸から体を動かしていくんです。こういう練習を繰り返す事で、体軸・体幹で受け止めて、体軸・体幹で返していく事ができるようになっていくんですよ。


バランスボール上でのメディシンボールキャッチ&スロー。
スローの変化させて360度の方向からスロー&キャッチを行うダブルタスクトレーニング


小野寺 どんどん話が発展していくのですが、トレーナーとして鎌田さんの考え方の基本的なところをまとめるとどんな感じなのでしょうか?

鎌田 私はよく「技術の3要素+1」と言っています。
①ポジショニング「体の位置」
②タイミングがブレーキペダルを踏む「タイミング」
③グレーディングがブレーキペダルを踏む「強弱」
④感じる力はそれら全てにわたる「情報把握能力」です。

小野寺 もう少し具体的にお願いできますか。

鎌田 加速や減速や旋回でかかるGに負けずに体の位置を保ち続けられる筋力とその使い方、ブレーキを踏むタイミングを把握する能力に、状況に応じて適度にブレーキを踏む力を調整する筋力とその使い方、それら全てを支えているのが、周りの状況を体の隅々にわたる感覚器官から得て体の動きにフィードバックする能力で、それが情報把握能力なんです。ドライバーの脚のトレーニングでブレーキ動作に合わせてレッグプレスも行いますよ。持久力も大切なので持久走も行いますし。

でも、個々の体力要素を鍛えるだけではアスリートの動く体にはなりません。それぞれの競技特性に合わせて、なおかつ一人一人の身体的特徴に合わせて現場で工夫しながらメニューを組んでいます。大切なのはトレーニングに対する考え方の基本を理解して自分の状況に合わせて工夫していく事なんです。これはアスリートに限らず、一般の人の体作りにも共通する根本的なところだと考えています。




小野寺 本日はありがとうございました。



肉体づくりのトレーニング、動きづくりのトレーニング


“トレーニング”という言葉には多種多様な方法が含まれますが、まとめて一言で定義すると、トレーニングとは「身体機能を高める事を目的とする運動」と言ってもいいでしょう。

体を動かす直接のエンジンは筋肉ですから、“身体機能を高める”という事は次の二つに分けて捉えられます。
・筋肉そのものの能力を高める
・筋肉を動かす能力を高める
筋肉の能力は筋肉の大きさと筋肉にエネルギーを供給する能力で決まり、筋肉を動かす能力は体のセンサーから集まる情報を脳で処理する能力で決まってきます。

モータースポーツは超高速でマシンの挙動を体のセンサーで集め、状況に応じて適切に判断して操作する事を要求されます。それも一瞬の判断の誤りが、“死”という極限状況に直面する過酷な状況で。研ぎ澄まされた体の感覚が必要な最たる競技と言っても間違いではないでしょう。

また、社会問題になっていますが、高齢化に伴い激増する転倒においても、体の感覚を維持・向上する事がそのリスクを低下させることにつながりますので、自治体などで行われている高齢者の健康教室などでも身体感覚を高める運動が取り入れられていることが多くみられます。

体の感覚を高めるトレーニングはとても有効なのですが、学術的な立場からは、適切な方法の根拠はまだまだ解明途上の段階です。理論的背景などを提示しながら行われているトレーニング方法にはとても効果的で適切な内容のものがある一方で眉唾物と言っても差し支えない方法が多々見受けられているのも正直なところです。

身体感覚を高める他にも、長丁場のレースで体が疲れてしまってはセンサーの感度が鈍ってきますし、疲労で判断能力自体も低下してしまう可能性があります。特にスピードが上がれば上がるほど加減速やコーナーリングなどで物理的に肉体へかかる負荷は大きくなります。これに対処するには負荷を分散して受け止める身体感覚と筋肉や心肺機能などを高めて疲れにくい体を作る事も大切です。

レーサーや実は他の競技スポーツでも、勝つための身体能力やそのトレーニング方法に関する研究はまだまだ未解明なことが山積みの状態で、鎌田さんの様な経験豊富で実績のあるフィジカルトレーナー方々が得てきたノウハウには貴重な情報が詰まっていると考えられます。


  • 鎌田 貴(Takashi Kamata) 昭和37年生まれ。東海大学大学院体育学研究科修了(体育学修士) プロアスリートのフィジカルトレーナーとして、幅広いジャンルのアスリートのカラダ作りを担う。ホンダレーシングの専属トレーナーとして、ロードレース、モトクロス、トライアルで20名を超える多くのライダーをチャンピオンの座に導く。また、女子プロゴルファーの宮里藍選手のフィジカルトレーナーとして、国内ツアーならびに初参戦時の米ツアーへ同行。現在もレーシングドライバー塚越広大選手のトレーナーを務める他、多くのプロスポーツ選手に加え、次世代を担う若手アスリートの育成にも力を入れている。

  • 小野寺 正道(おのでら まさみち)
    パワーラボ代表
    大学院博士課程在籍中にメディカルフィットネス施設の立上げに関わり、同ベンチャー企業でメディカルフィットネス事業担当取締役に就任。その後、独立して、IT企業、メーカー、人材会社、フィットネス事業者などで各種ヘルスケア関連の事業開発案件と産官学連携事業に従事している。

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[ PHYSIQUE MAGAZINE 002 ]

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