トレーニングに影響する日頃の癖(3)/三橋 忠
掲載日:2016.04.22
フィジークオンラインをご覧の皆さんこんにちは、パーソナルトレーナー&柔道整復師の三橋忠です。
こちらで、「トレに影響する日頃の癖」の8つのポイントをあげ、前回は「頸椎の回旋」をご紹介しました。 今回は「胸椎の伸展・回旋」「胸郭の可動性」に関して、解剖学、エクササイズ含めて細かく紹介していきます。
胸郭の解剖
「胸郭」は、胸部を形づくっている骨格です。①胸骨、②肋骨と肋軟骨(12対)、③胸椎(12個)で構成されています。
胸郭に付着する、大きい筋肉を挙げると、大・小胸筋、前鋸筋、腹直筋、外・内腹斜筋、腹横筋、腰方形筋、腸肋筋、胸椎まで含めれば、僧帽筋、広背筋、菱形筋、最長筋、胸棘筋、半棘筋、板状筋、更に肋骨まで含めれば、外肋間筋、内肋間筋、肋下筋まで関与する筋肉があります。
これらの筋肉の作用をみれば、胸郭は頸椎・上肢・腰椎にも直接的な影響を及ぼすことは明らかです。筋肉名を聞いただけでも、強力なアウターマッスルが多いので、バランス良く鍛えないと障害に繋がります。
胸郭と呼吸
自然に呼吸する上で胸郭の適正な働きは大切です。息を吸うときに胸郭の可動性に制限があると、より大きな力が必要になり、エネルギー効率が悪くなります。その為、呼吸運動の仕事も多くなり、酸素消費量が無駄に増え、疲労感や息切れに繋がります。
持久系競技をされている方に胸郭の動きを改善させると、「同じ距離を走っても疲れにくくなった」と走力の向上を体感されます。これは胸郭の動きそのものが改善した効果に加えて、呼吸パターンの適正化、換気量の増加、呼吸の仕事量軽減などが改善したのだと思います。
特に年齢が上になる程この稼働制限は出ていることが多いので、改善した時の体感は感動されてます(^^)
また、深い呼吸ができていないと、自律神経のバランスも乱れます。呼吸は自律神経の支配を受けています。
逆に深い呼吸ができることは、自律神経を整える上でも有効です。ヨガ、真向法などの各種呼吸法も、深い呼吸を整えることで自律神経を整えます。
自律神経のバランスがとれていると、自然治癒力も向上します。疲労をいかに抜くかはトレーニーに取って非常に重要です。疲労がなかなか抜けない人は、深い呼吸から身体のケアを見直す必要があるかもしれません。
自律神経が乱れないよう、心身共に健やかな生活を心がけましょう。ちなみに、代表的な呼吸筋、横隔膜のアプローチにおいて重要なのは、横隔膜に連結する大腰筋の機能となります。
この話しはまた次回ご紹介します(^^)
胸郭が競技動作に関係することについて
「肩の動きが悪い」「肩が痛む」など「肩」の障害は多いですが、肩の動きを良くする為には、肩関節だけでなく、肩甲骨〜胸郭で構成する肩甲胸郭関節の可動性改善、位置の適正化が必要です。
(例)
・野球の投球動作
・バレーボールのアタック動作
・テニス、バトミントンのサーブ動作
これら競技動作には頭の上(オーバーヘッド)での、肩のストローク動作が入ります。
胸郭の回旋に伴い、肩甲骨の内転や外転、上方・下方の回旋がスムーズに行われることで、肩甲骨周囲の筋群の活動が適正に行われ、肩甲骨〜肩関節の動的安定性が得られます。
胸郭の回旋制限は、肩甲骨の動きを制限して、肩の動きや安定性を失う事に繋がります。中年になっても活躍してるスポーツ選手は、総じて姿勢が良く、肩甲胸郭関節の動きに「よどみ」がないです。
伸展と回旋動作の重要性
伸展動作と回旋動作は特に重要となってきます。回旋動作は12個の胸椎全体で30度程度あります。これは体幹の回旋のほとんどが胸椎で行われている事を意味します。
投球やバッティング、ゴルフのスイング、柔道の投げ技などほとんどのスポーツで体幹の回旋動作を必要とするため、この可動域が重要となります。
ストレッチやモビライゼーションなどによって胸椎・胸郭の可動性の獲得はパフォーマンス向上だけでなく、腰部の外傷・障害の予防に非常に効果的です。
胸椎・胸郭の可動性が不十分な場合、身体は腰椎の安定性を犠牲にして、腰椎で無理に回旋や伸展動作を行い、胸椎・胸郭の可動域を補います。
ただでさえ、構造的に不安定な腰椎がさらに機能的にも不安定になり、力の伝達に支障をきたすと障害に繋がります。その為、所謂「腰痛」が無理な運動によって起こるので。
ヘルニアや脊柱管狭窄症が、頸椎、腰椎に多いのは、胸椎エリアの伸展・回旋の働きが悪いことがほとんどです。腰の症状の根本は、結果として「腰」に悪影響が出ているのです。
エクササイズ
◆「ストレートアームダンベルプルオーバーONストレッチポール」
(1)ストレッチポールの上に乗って身体の左右差を整えるエクササイズをします。胸椎が伸展するまで、ストレッチポジションに持っていきます。
(2)サッカーのスローインのように均等に挙上します。
(3)コントラクトポジションでは、ストレッチポールに対して肩甲骨に偏りがないか確認します。
これを10〜15回、ストレッチを感じれる楽な負荷で行う。
※慣れたら筋力に合わせて軽めのダンベルでも行います。
◆「胸椎回旋ローテーション」
(1)ストレッチポールに左脚を乗せて下半身を固定する。
(2)ゆっくりと上体を左側に回旋させ、胸椎を中心に回旋運動を行う。
(3)ストレッチポジションで左腕を床に着け、頸部も左側に向き、ストレッチを強める。
(4)スタートポジションに戻る、これを10〜15回続ける。反対側も行い、左右差がないか確認する。
◆「胸郭のペアストレッチ」
(1)胸椎5〜6番に膝を当て、両肘を持ち、後方にストレッチする。この際に胸椎の伸展が取れるかの確認もする。
(2)大胸筋を使い両肘をゆっくり閉じていく、この際にパートナーは筋力の左右差がないかの確認もする。バリエーションとしてPNFを入れて可動域を向上させる。
まとめ
胸椎の回旋と伸展の重要性について説明をしました。胸椎は多くの人が、日常生活において動かすことを意識しにくい部位です。しかし、胸椎の動きが低下していることで様々な問題が引き起こされトレーニングに影響が出ます。腰痛を例に考えてみると、胸椎の回旋と伸展の可動性が低下することで、結果として腰部にストレスを与えてしまいます。
正しく脊柱の動きを理解して、日頃から胸椎の回旋と伸展の可動性を高めて行くエクササイズをして、障害を未然に防ぐようにしましょう。
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- 三橋 忠(みつはし ただし)
加圧トレーニングスタジオHAPPINESS&ハピネス整骨院 代表
ファイン・ラボフィット パーソナルトレーナー
大手スポーツクラブのチーフトレーナー・責任者を経験した後、パーソナルトレーニングスタジオ店長として4年間勤務し、整形外科・接骨院でもキャリアを積み、2011年に加圧トレーニングスタジオHAPPINESS&ハピネス整骨院を開業。パーソナルトレーニングで年間3500 セッションの指導を行う。
<資格>
・厚生労働大臣認定柔道整復師
・加圧スペシャルインストラクター
・米国認定ストレングス&コンディショントレーナー(NESTA-PFT)
・キネシオテーピングトレーナー
<競技実績>
2008年ボディビルMr茨城 準優勝
2008年ボディビルMr茨城70kg以下級 準優勝
2009年ボディビルMr茨城70kg以下級 優勝
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