ニ種類の不飽和脂肪酸と脂肪の吸収・消化の仕組み
掲載日:2016.04.07
さて、こちらの記事で、炭素の並び方で色々な“脂肪”が存在する事が分かりましたが、二重結合の曲がり方が違う事によっても、性質が異なる脂肪があります。
食物には、シス異性体とトランス異性体があります。略してシス異性体をシス型、トランス異性体をトランス形という事もあります。天然の食物はシス型をしています。トランス型は、ある腸内微生物や植物油の工業的処理によって不飽和脂肪酸の一部に水素を添加した形をしています。
簡単に言えば、シス型は天然物、トランス型は加工食品と考えて下さい。トランス型の食品の代表格は、マーガリンやお菓子の材料に使われるショートニングです。
男性の方にはショートニングという名前はあまり馴染みがないかも知れませんが、ドーナツやクッキー、ケーキの材料などに広く使われます。お菓子作りが趣味の方ならよく知っている材料です。
従来、トランス脂肪酸はヒトには悪影響がないと考えられてきました。しかし近年、細胞膜の構造に変化を与え、細胞機能に悪影響を与える事が指摘され、摂り過ぎは危険だと言われています。
例えば、中性脂肪やLDLコレステロールの上昇、HDLコレステロールの低下などが報告され、過剰摂取は心疾患の増悪が懸念されています。そういう意味でも、トランス脂肪酸こそは、なるべく摂りたくない脂肪と言えます。
そうは言っても、甘いものが大好きな方は多いでしょう。身体の中で一番重要な栄養素は、こちらでお話したタン白質です。体内でタン白質が慢性的に不足していると、身体は“大事な栄養が来ないのなら、せめてカロリーだけでもくれ!”と、糖質を要求します。
疲れると甘いものが欲しくなりますね。その時は、トランス脂肪酸の「お菓子」ではなく、是非タン白質食品を入れてあげて欲しいのです。
例えば、ゆで卵や、焼き鳥などはどうでしょう。また、過剰に摂取された糖質は、脂肪に変換されて脂肪組織などに蓄えられてしまいます。
脂肪の消化と吸収
脂肪は舌の背面にある腺から出る、舌リパーゼという酵素の作用により胃内で消化が始まり、主な消化は小腸で行われます。脂肪は水に溶けませんから、胆嚢から胆汁が出て来て脂肪と混ざり、乳化(ミセル化)された後、膵液中のリパーゼによって消化されます。
ですから、胃酸の出の悪い人、胆嚢を取ってしまっている人、肝臓の悪い人(胆汁は肝臓で作られる)などは脂肪の消化が困難になり、長年続けば脂肪栄養が慢性的に不足した状態になります。脂肪の消化が上手くいかない人は、便に脂が浮く事があります。
特に40歳以上の中高年や、普段から低脂肪食を心がけている方は胆汁が出にくくなって行きます。このような方が脂肪分の多い食事をすると、上手く吸収されずに排出されてしまうからです。
脂肪に溶ける栄養素、例えば、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンD、コエンザイムQ10などが慢性的に不足していきます。不足をサプリメントで補う場合でも、乳化(ミセル化)されたものを摂る事をお勧めします。
胆汁は食物繊維によって体外に排池されますが、食物繊維の摂取が少ないと体内でリサイクルされます。しかし、実はどんどん排池して新しい胆汁を作る方が身体の代謝としては活発といえますし、食物繊維の摂取は大腸ガンの予防にもなります。
肉も野菜もしっかり食べましょう、という事ですね。健康法は世の中にたくさんあります。肉は控えて野菜を沢山食べましょうという健康法もありますが、私は両方しっかり摂るべきだと思います。
なお、最近注目されているC14以下の中鎖・短鎖脂肪酸(炭素の鎖が短いタイプ)は門脈を経由して肝臓に直接取り込まれます。
[ アスリートのための分子栄養学 ]