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“大切なのは心の教育”「シンクロの母」井村雅代コーチ スペシャルインタビュー

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日本シンクロ界はかつては小谷実可子選手、奥野史子選手、そして立花美哉選手、武田美保選手など、それそれの時代でスターが存在してオリンピックや世界選手権でメダル常連国であった。それらすべての指導に携わったのは「シンクロの母」と呼ばれる井村雅代コーチである。

2004年のアテネ五輪終了後、日本代表のライバルとなるべく中国代表のコーチに就任したことにより、当時国内では批判の声が多く聞こえた。しかしそんな雑音を物ともせず、シンクロ未開の地であった中国代表に2008年北京五輪では銅、2012年ロンドン五輪では銀メダルを獲得させるに至った。

その後、イギリス代表の指揮を執るなど、世界中からその手腕を評価されるなか、本年4月より日本代表コーチに復帰した。ところが10年ぶりの日本代表はかつての輝いていた頃のJAPANとは状況が異なっていた。しかし厳しさの中に最大級の愛を捧げる指導で、来るべき東京オリンピックで再び輝きを取り戻すことが期待される。

 

競技スポーツはメダルを獲ることだけが目的でない


— 日本代表チームは先日の仁川アジア大会で、かつて先生が指導されていた中国に次いで2位となり、オリンピックで金メダルも狙える位置にきたのではないでしょうか?
いやいや、今の日本はまだまだ、ごまかしごまかし…まずは本物にしないとダメです。去年はウクライナにも負けてるでしょ。ウクライナには勝てると思ったけど・・・。他にもロシア、中国、カナダ、スペイン、ウクライナ強豪国はいくつもあります。

— 先生はアメリカ、カナダをはじめほとんどの国を指導されてきたのではないでしょうか?
アメリカ、カナダには短期間で、中国、イギリスにはある程度の期間行きました。でも、イギリスはシンクロ無くなったしね。もうやめたんです。予算を切るというので、今年の5月にシンクロという種目そのものをやめたのね。GBの連盟から種目自体を消すということ。

選手もコーチもやろう思っていて、去年わたしが教えに行って、8位になったんです。8位になったら素晴らしいじゃないですか。でも彼女たちはそれに満足してシルクのオーとか行っちゃったんです。ロンドンオリンピックの開催国なので、それまで7年かけて育ててきた若い選手たちがデュエットで8位までいったけれど、その後その選手たちはやめてるから、新しい選手たちがリオとか東京に向けてやり始めたんです。

そしてその間、個人種目を私に頼んできて、去年の世界選手権ではファイナリストにもなってたんです。なのに、イギリスの水泳連盟の判断は、これは弱い種目だということで、今年5月で種目自体を切ったの。シンクロだけでなく新体操、バスケットボール、バレーボール、水球。開催国だからやってたんだけど、オリンピック終わったら全部切っちゃったの。

理由はメダルに関係ない種目は止める。止めてそれをイギリス伝統種目である、クリケットとか乗馬とか・・・キングとクイーンの国だからそっち側に伸ばすみたい。で、それをたまたま、昨日新聞週間で、プレスセンターでパネルディスカッションをしたんですけど、新聞社17社来て、あのイギリスのやり方は素晴らしいなんて言っている新聞社がいましたが、スポーツは何のためにあるの?って言ったら、「そんなためにあるんじゃないじゃないですか」だって。メダルに絡まないからって言って止めるなんて・・・。

メダルが獲れない種目は止めるイギリスのやり方は素晴らしい。そういうやり方を日本はとるべきか、とらざるべきかとか、イギリス方式が素晴らしいとか日本の新聞が書いていたけれど、そんなことは検討事項にもなりません。全くお話しにならないね。

メダルが獲れないから止めちゃうって、それはスポーツ本来の姿から外れてますよね。でもそれを賞賛する日本人の声もあって・・・呆れてしまいます。競技スポーツって、それまでやっていた選手が辞めたら低迷して、でも若手を育成して、その繰り返しじゃないですか。そんなんあったらすぐなびく日本人。

私は現実の中に入っていたから、コーチもやる気がなくて、ただやっているだけ。計画を立ててやっている最中でも、そうやってやめるから、もうビックリしますね。 いずれにせよマスコミの力は大きいですね。日本人ってマスコミに言われるがままになっていく。マスコミはダメな時は極端に叩いたり、逆に負けても「よく頑張った」なんて言うじゃないですか、そんなの嘘。本当の事を言わなあかんです。

今年の仁川アジア大会、デュエットで銀メダルを獲得した乾・三井組。演技前緊張する選手たちを激励する

 

10年ぶりの日本はマイナスからのスタート


— シンクロの基本トレーニングはどういったものなのでしょうか?
シンクロは水の中で無重力の種目だから、跳んだり跳ねたりはふくらはぎが太くなったりするので、基本的にさせません。でも、水の中で筋力をつけようと思ったら無重力だから難しいので、もちろんマシンとかも使いますけど、スクワット系とかはやらない。基本アウターよりもインナーを鍛えますね。特に下半身なんかはね。

でも日本人は欧米人に比べると脚が短いから、今トップの乾っていう子(乾 友紀子選手)がいるんですけど、彼女はふくらはぎを今から鍛えようと思っているんですね。あまりにもツルんとしていて、バービー人形みたいな脚で、血と肉が通ってないような脚だから。

今までのシンクロでは見られなかった筋肉が浮き出るような脚を作ろうかと思ってるんですね。でも前(大腿四頭筋)なんかは絶対つけないようにしてます。

— それぞれの選手の身体を見て、各自にあった指導をされているのでしょうか?
この雑誌(フィジークマガジン)に載っているような皆様方と一緒で、スポーツというのはハンドメイドです。肩幅のある子とない子では付けたいところが違います。だから全体のトレーニングとインディビジュアル(個人)のトレーニングと両方あって、弱いところにウェイトをかけていくという感じです。

久しぶりに日本に戻ってきて4月から日本代表チームを教え始めたけど、ともかく身体ができていなくて・・・。中国チームも北京五輪の前に1年8ヶ月指導したけど、むこうは ‘ゼロからのスタート’ だったんですね。

筋肉なんか何も無くて、食べ物教えて、摂るもの教えて、ゼロからトレーニングやってきたけど、日本に戻って来て、そのつもりでやりかけたら日本チームはすっごい脂肪ついているんですよ。だからまずは脂肪を減らすことから始めました。それに1ヶ月半かかりました。これは全く想定外。ゼロからじゃなくて「マイナスからのスタート」だった。

— シンクロは水の中で体力が必要なので、体脂肪が必要と聞いていましたが?
脂肪も必要だけど、美しく太るという感じで、でも今の時代、動きが速くなってきているから以前と違って20%越えるのはダメ。最高に体脂肪が多い子でも18%くらいに抑えないとダメですね。ジャンパーの子で13〜14%くらいで、ボトムと言って下で支える子で18%。

とにかく久しぶりに日本に帰ってきたらとんでもない事になっていました。今回日本チームを教えて、コーチっていうのは選手の技術や体力を上げることやと思っていたけど、それだけじゃ足りないんですよ。5ヶ月教えて大変だったのは、低かったら低いなりに、少ないなら少ないなりに選手の持っている力を出させるという仕事がある。どんだけ力を付けてあげても出さないの。要するに思いっきりいかないの。それがものすごく大変ですよ。

だから今はそれなりの成績しかとってないんです。以前はメダル獲るの当たり前だったけど、世界で1番と2番、2番と3番、3番とメダルの無いところじゃ大きな違いがあるんです。

だからあの子たちに「あなたたち頑張っているよ。でもその頑張りでは足りないの」ってずっとそういう事を言ってたの。でも本人たちに全然届かないの。

それで私ある時、ハッと気付いてイギリスのこととか中国のこととかいろんなこと思い出したときに、「そや、この子たちの頑張りは5位や6位入賞者の頑張りをしている」と思ったんです。メダリスト、トップの頑張りからファイナリスト(12位まで)の頑張りってそれぞれの頑張りがあると思った。それからは「トップを目指す頑張りをしようよ」って言うようにしています。

トレーニングはいろいろするんですけど、今の日本チームはだらだらするのが好きだから、それはこっちだっていろんなこと知ってるから、11人いたら11人それぞれに制限タイムを設定しなければあかんのです。

でも、よーいドンでやったらみんな一緒に帰ってくるの。「何で一緒なの?それぞれ能力が違うからタイムが違って当然じゃないの?」ってこと言って、一人の子捕まえて「あなたはもっとできるのに何故みんなと一緒に帰ってくるの?」って聞いたら、「みんなから飛び出るのが嫌だ」って。

何を言ってるんやろ?ゆとり世代の典型やね。競技者としてあかんでしょ?水の中ではケンカせなあかん。何回も間違う子に対しては「いい加減にしなさいよ」ぐらい言わなあかんて。今の世代の若者ってこういうの(ウェイトトレーニング)やる子減っていません?こういうのやる子ってストイックだから。



 

ゆとり教育の弊害を嘆く


— はい。確かに若い世代は減っています。
そう、ストイックな子がいないの。『みんな仲良く』が好きだもん。ストイックな部分が消えてしまって、それはゆとり教育の失敗ですよ。そしてさらに問題はゆとり教育の世代が親になっていく。それは最悪。ゆとりがゆとりを教育するということはもう全然ダメやと思いますよ。

だから今、日本選手に教えるには違うエネルギーが必要。練習が始まってもみんな一緒。ダラダラはやるけど、隣の子を抜いて私が行くとかは無いんですね。だから、私は競争の原理をプールに持ち込んだ。大変ですよ。一種目する毎に並べ替えるの。あんたは速い。あんたは遅いっていうことをはっきり示してやろうと思って。

2008北京五輪 初の銅メダルに輝いた中国チーム。表彰式後、選手からメダルをかけられる


— そのへんの意識は中国チームなどと比べると違いますか?
全然違う。むこうはダイレクトですよ。勝ちたい。メダル獲りたい。日本人は何かそういうメダルと獲るとか言うことまで心に秘めているのがいいみたいなのがあって、そのクセゆとり教育の典型は、どんな目標って聞いたらすごい目標掲げるの。「ロシアと同じ点を取りたい」って・・・もう100年早いわ(笑)。

言うことだけは言うけど「そのためにあなたは何をするの?」と聞くと何も無いの。試合に負けると「私たちがんばったもんなぁ」って、自分で慰め、自分へのご褒美で自画自賛。頑張ってるかどうかはコーチが見て判断するんです。選手が自分で決めるもんじゃない。自己申告すなって(笑)。

スポーツって何でも自分で壁を作って、その壁を自分の力で打ち砕いていく快感みたいなのが本来あるじゃないですか。だからよく言うの「言っておくけど、私が言うことに応えていかなければ、変わらないよ」って。でも、まだ弱いから試合の時、「あなたたちだけで着たって全然チカラが無いから、悪いけど、私が着るTシャツと同じの着なさい」って。あの子たちだけだと、ただの弱いJAPANだけど、私と同じの着てれば強く見えるでしょ。そういう事にも従順は従順。悪い意味での従順。これも教育の失敗。各スポーツ業界も同じやと思う。

だけど、たまに競泳の荻野くんや瀬戸大地くんみたいに自分にストイックにやってチャレンジすることができる子がいる。でもそれは異質で世界に通用しているから人は格好いいと思うけど、あんな子たちは珍しいよね。

貴重品みたいで、私からするとイケてる選手やねと思うけど、浮ついている感じはなく自分はこうしたいっていうのがあって、そんな彼らを見て、マスコミは言うじゃないですか。「最近の若者は凄い」とか・・・。よう言うわ。宝くじ以下やね。あれやったら宝くじ1億円当たる方がよほど簡単でしょ(笑)。

あんな子が珍しくて、今の平均的な若者はおかしい。それに大人たちは機嫌とっているみたい。やっぱり腹くくれないから、シンクロでも、言いたいけど、言ったら辞めるから言わない・・・みたいな。

ウェイトトレーニングなんかだったら、あれって自分のフィーリングが大切じゃないですか。重さのセッティングとか。ところがね、今の選手はもの凄くサボるの。そして芝居するの。最初は顔見ると、この子精一杯やろなって思ってたけど、ふと気付いて、この子たちの顔は信じたらあかん。背中見たら大抵精一杯か分かる。もう女優ばっかりよ。

普通だったらマシンでも重いのやってて快感みたいのあるじゃないですか。私らは自分が進化できたみたいのが嬉しいことなんだけど、あの子らはそんなならなくてもいいの。それですぐ芝居するの。

この間のワールドカップ・カナダの時、選手たちにボロくそ言いましたよ。「あなたたち日本背負って泳げ!! それだけの使命を持って泳ぎなさい。勝ち負けも重要だけど、自分が持っている力を出そうよ。それを出さないと絶対後悔するよ。この試合のためにやってきたのだからここで持っている力を出そうよ」って。

今回、昨年ボロ負けしたウクライナに完勝したのに怒られる・・・。昨年は負けているのに怒られなかったじゃないですか。だからその時どんな気持ちってだった聞いたら「空白があった」って言ったね。

メダル獲ったの初めてだもん。メダルなんか関係ない人達やった。いつも表彰台を見て「がんばったけどな〜」ってそんなんばっかですよ。だからあの子らはマイナスからのスタート。取り除かなければいけないものがあるんです。

10年ぶりに日本に戻ってから3月ドイツオープンとフランスオープンに行ったんです。久しぶりに試合に出さす時だったけど、試合前のウォーミングアップ25mプール2本で止めるの。どうしたん?って聞いたら「試合前だから本番に備えてエネルギーを蓄える」って。それを聞いて目が点になった。身体動かしておかないといざいうたって身体動けへんでしょ。

あんなんおかしい、今までそうやってきたんです。それでいいように自立とか自立性という意味で、全くコーチを頼らない。全然頼らない。どうして?と思うんです。選手は試合になると怖いというのがあるから、私は影の力になってやりたいと思う。だけど、コーチに頼む時と頼まない時がわかってない。あまりかわいがられていない子がそうなると思うんです。

家でも親にかわいがられている自覚がある子は叱られても親のところに帰るじゃないですか。親は自立とか躾とかいうけど、心が通っていない家庭は子どもは反対向いていくでしょ。あれと一緒で選手の中でコーチの存在が薄かった。私それにはびっくりしたね。

結局、今までコーチは自主性とか自立とかいう言葉で何もしてあげてなかったということですね。それがやっと、フランスに行った時に、最後付いていって選手を送り出すでしょ、そしたら終わった後に「なんか、先生たちと戦った気がしました」って。当たり前のこと言うとる。もしそうやなかったら私ら付いてくる必要ない。勝手に飛行機乗って、勝手に試合出たらいいんや。

オリンピックの時、演技が終わると選手たちとコーチはハグするじゃないですか。あのギリギリの中で泳いでいる選手とギリギリの中でトレーニングを指導してきたコーチって、あれこそ文化とか関係なくて思わずそうするんです。

でも、ロンドンの時、日本チームだけは知らん顔して行ったんです。コーチは待ち受けているのに選手はさっと行ってしまう。それをあとで聞いてみたら「私の中でコーチは存在していなかった」って言った。あー悲しい言葉やなと思って・・・。

それから6月にジャパンオープンに選手出した時、最近の子たちはどうやって出るのか観察することから始めたけど、どうするかと思ったら出番の前、選手同士で楽しい話をいっぱいしてるの。

それでコールされるとパッと歩いて行く。えっ?と思ったけどそれが今の子なんだと思ったけど、演技は滅茶苦茶。上がるや否やサブプールに並べて「あなたたち何考えてるの?あの演技は何よ?出る前にあんな集中力でいい演技なんかできないって。あんな態度は絶対おかしい。自分と向き合いなさい」って言うた。それに対してあの子らが言ったのは「緊張するのが怖いからそのことを考えないようにした」って・・・ありえへん言葉でしょ。

考えろって。考えて精一杯のプレッシャーを抱えてこそ火事場の馬鹿力が出るんや。今度フリーの時、「こないだみたいな演技したら承知せんからね!」って、そのくらい発破をかけないといけない。どうやって試合に出るかから教えてあげなければならない。しなければならない事。アスリートとはどういうものか。JAPANって何やろ?JAPANの重みを感じなさい・・・そういう事を教える。

だから、普段の立ち振る舞いも教える。寒い時も背中を丸めちゃいけないとか。やっぱり格好いい選手、歩いたら人が振り向くような憧れの存在でいなければいけない。普段の生活から意識するというか、試合の時だけちゃんとするなんて、残念ながら人間ってそんなすべて化けることはできません。舞台に上がっている以外の時も意識するのが大切で、いくら良い演技しても終わったら変な歩き方とかしてたらダメです。




 

最後は見えないオーラで勝負は決まる


— シンクロも採点競技なので発するオーラが必要ですよね?
もの凄いある。私、必ず言うのは試合は試合の前から始まるって。それは絶対です。へにゃへにゃで来て、演技がうまいから点が出るって言ったら、そう言うものではない。

人間ってすごいと思うのはオーラが見えるんです。立花・武田で金メダル争っていた頃、最後はオーラの勝負だって言ってきて、スピンがまっすぐ回るとかは当たり前。最後は何だっていうとオーラという見えないものと争っているんだって。

— 立花さんや武田さんのようなトップ選手にはもともとオーラがあったのでしょうか?
小さいころからカリスマ性を兼ね備えた子はいるけど、人を説得するだけのオーラというものは、その子がどんな事をしてきたか、どんな事で自信をつけてきたか、そして心の感動みたいなものをどれだけ経験してきたか、たくさん綺麗なものに触れ感動してきたか・・・そういうのは怖いけど出ますよね。

私が以前、心がけさせたのは、本物に触れさせることです。別に何でもいいの。見せかけのものじゃなくて、本物を見せました。本物をやっている人は皆本気です。だから、それを見た時に凄いと思い感動する。例えば舞台を見たりすることは自分への投資。服やバッグを買うでもない。自分の中に見えないものに対して投資をする。今の子、自分へ投資することも知らなくて、今から思ったら、よく5位くらいで止まっていた。もっと落ちてもよかった。8位くらいに落ちてもよかった。それが何で5位で止まったかというと、日本は昔強かったから。

— 日本がかつてのレベルを取り戻すにはどうしたらよいでしょうか?
最近はマスコミが「なでしこ」とかフィギュアに行って、シンクロを取り上げてくれないので、何らかの形で取り上げてくださいと言うてます。メディアに取り上げられれば、やりたい子が増える。増えてきたら底辺が拡大して強い子が育つと。

日本は何でもブームに流されるからマスコミの力は大きいです。そんな状況を見ると、戦争が美化されたのもわかるよなって思って、ずっと日本人ってそうやって誘導されてきたよなって。大きな国であれば、いろいろな考えの人が出てきて賛同しない人も出てくるけど、日本は国が小さいので反対の人の数が少ないから、みんなドーっと行っちゃう。

数少ない人が、あれおかしいよねと言っても大勢派に反対するにはエネルギーがいるから疲れて反対しなくなる。さらに今は子どもの数が少なくなっているから各スポーツで取り合いなんですね。だからそこに厳しさっていうものが欠けてくるし、ちょっと負のスパイラルぎみかな・・・。

— シンクロ界でもかつての小谷選手や立花選手、武田選手のようなスターがいるといないでは大違いですね?
大違いです。普及に対して全然大違い。実可ちゃん(小谷実可子選手)はバランスからして、こよなく魅力的な綺麗な子だった。世界の人が見たときに綺麗と思う綺麗さ。エキゾチックさもあり、オーラもありました。

確かに彼女のおかげで日本にシンクロは普及しましたね。その後に立花とか本当に強い子が出てきた。一時私らの時はお家芸とまで言われたくらい。だから、2001年世界一になった時なんか、テレビの視聴率37%ゴールデンタイムでいって、号外まで出ましたからね。また、そんな時が来たらいいですけど、ちょっと根性入れ替えなきゃ。

 

何より心のトレーニングが大切


— 今日、井村先生の話を聞いていると技術的なトレーニングよりも、むしろ心のトレーニングが大切ということがわかりました。
そう。心のトレーニング。それがなかったら粘れない。いいとこまで行っても越えられないの。持ち物はシンクロだったら脚が長いほうがいいし、背も高い方がいい。

だけど、いっくら脚が長くても綺麗でも、ふにゃふにゃな気持ちの子はダメ。そんな子いっぱいいるよね。もったいない。先天的に持ち物の良い子で、心さえあればいいのにという子を今までに何人も見てきました。

でも、その子にとっては越えられないんだもん、心は・・・。子どもが育つ中でどんな人と出会ったか、どんな信念を持った親に育てられたかっていうのはその子の運命よね。子どもは親を選べないから気がつけばその親の子になっている。一本筋の通った親に育てられれば、子どもはそうやって育っていくし、やっぱり心が一番大事やね。

 

押しつけでない、ほどよい日本人らしさで戦う




— 世界で戦う時に日本人らしさというものを意識してきましたか?
シンクロのルーティーンを作るときに日本人らしさというのを意識しました。アメリカ人には着物は似合わないけど、やっぱり日本人には似合うのと一緒で、日本人には日本風が似合う。でも、面白いのは日本をグーっと押し出すじゃないですか、それって西洋の人には入れない域なんです。

だから得点については歩留まりがあるの。もう一つ上で世界となったら、それだけでは勝てないの。日本らしさだけではダメで、それだけだと文化の押しつけになるの。世界のいろんな文化の人に愛される日本の良さを知らなきゃダメだし、日本だけでは苦しい。それは独特な文化だから。

中国でやっていた時は中国の文化を取り入れようとしました。でも、欧米は陸つづきだから文化もぐちゃぐちゃになっていますね。そういう意味で日本人には日本を表すネタはいっぱいありますよね。島国で文化が守られているからだけど、あるところからはちょっと難しいかな。

例として西洋人に日本の伝統文化だと言って浴衣をあげるとする場合、なるべく華やかな色を選んだ方がいい。藍色の浴衣などは難しい。テレビでたまにお茶が好きとかお華が好きとかいう外国人が出るけれど、それはたまたまのオタクでマニアックな人だから、その人を基準にしないで全般的で平均的な事を言うと、やっぱり分かり易くて華やかな色を選ばないといけない。日本文化を押しつけないで向こうが憧れる日本でなきゃいけない。そこの頃合いが難しいですよね。

ということはいつも世界に対して自分がアンテナを張っていて、どの辺までの日本らしさが受け入れられるかを理解していなければならない。世界のその時の情勢によっても全然変わるものなので、自分のエゴでは、あるジャッジから点をとれても、別のジャッジから点をもらえなくなる。日本はこれから東京オリンピックも控えていて、憧れられるじゃないですか。そこを利用しない手はないかな。


— 今後は6年後の東京オリンピックに照準を合わせることになるのでしょうか?
いや、まずは今の日本はやっとメダル争いに入れるところまできたから、まずはリオ(2016年リオデジャネイロ五輪)をどうするかということが大事で、東京はちょっとわかりません。でもね、わかりませんって言っておきながら、片方の脳で常に選手の入れ替えとか考えておかないといけない。今を戦う事が必至で、リオでガサっと落ちてしまったらこまるので、そこはうまく今から選手をどういう風にやっていくかを考えなきゃならない。

今年あの子たち初めてメダル獲れたじゃないですか。11人いてるうち10人が現役続行するもんね。ある子らに言わせると「キツかったけど初めて達成感を味わったので、もうちょっと行ける気がする」って。5ヶ月でまだ何もしごいてへんのに、これからがもっと大変なんだよ・・・という感じなんだけど(笑)。だけど、そうやってやりがいを感じたら選手は残っていくもの。

北京五輪の後なんか、メダル獲れなかったから全員辞めちゃったのね。ゼロですよ、ゼロ。それはあかんでしょ。9人いて9人辞めちゃった。結局、弱かったら自分に希望がもてないから辞めていくけど、今年は正直もっと辞めていくと思ったら1人しか辞めなかった。ということは来年は今年のままで戦えるということです。達成感があって、ちょっと自分がやれる感があって、課題があったらやれるもんね、人間って。

リオを考えながら、どこかで東京ってものを考えていて、さらに東京も考えながらその次もちょっとだけ見据えて、試合で目標を達成させ、やりがいを感じさせてあげること、それが何よりでしょうね。そしたら選手は続けるでしょう。東京でメダル獲れなかったらシンクロやめたほうがいいね、イギリスみたいに(笑)。

<指導者としての実績>
1984年・ロサンゼルス五輪 元好三和子・木村さえ子組でデュエット種目銅メダル
1988年・ソウル五輪 小谷実可子・田中京組でデュエット種目銅メダル
1992年・バルセロナ五輪 奥野史子でソロ種目銅メダル
1996年・アトランタ五輪 チーム種目(8人制)銅メダル
2000年・シドニー五輪 デュエット種目の立花美哉・武田美保組、チーム種目それぞれ銀メダル
2001年・世界選手権福岡大会 立花・武田組デュエット種目で世界大会初の日本人金メダル
2004年・アテネ五輪 デュエット種目の立花・武田組、チーム種目それぞれ銀メダル
2008年・北京五輪 中国代表、チーム種目銅メダル
2012年・ロンドン五輪 中国代表、デュエット種目銅メダル、チーム種目銀メダル

 
  • 井村 雅代(いむら まさよ)
    1950年8月16日生まれ。大阪府出身。シンクロナイズドスイミングの指導者。元選手。選手として日本選手権で二度優勝し、公開競技として行われたミュンヘンオリンピックに出場。大阪市内の中学校で保健体育科の教諭を務めた後、シンクロ指導者となり、1985 年(昭和60 年)から「井村シンクロクラブ」を創設、競技者育成を行う。1978 年(昭和53 年)から日本代表コーチに就任し、世界的な選手を次々と育てた。長年、日本のシンクロナイズドスイミング界を牽引して基礎を築いてきた指導者としての実績や功績の大きさから「シンクロ界の母」と例えられる。

TEXT & PHOTO :
Yasu Nakajima
フィットネス&ボディメイク情報誌
[ PHYSIQUE MAGAZINE 004 ]

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