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頭部を冷やすと他部位の痛みが和らぐ!? / 部位別コンディショニング&ケア

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掲載日:2015.06.05


今回のテーマは「部位別のコンディショニング&ケア」です。なかでも、頭痛や熱中症など、頭部のセルフンディショニング&ケアについてお話しすることにします。また、不思議なことですが、頭部のケアは頭の症状だけでなく、その他の箇所における痛みに対しても有効です。それはなぜか?まずはその理由を紐解いていきましょう。

生理的局所冷却アイシング


前回、生理的局所冷却(アイシング)、そしてウォーミングアップについてお話をしてきました。これらの記事をよくご理解していただき実行していただければ、かなり良好なコンディションを維持して各種トレーニングに励んでいただけるかと思います。

冷却について、最近タイムリーなニュースがありました。心筋梗塞で心停止した男性(61)が病院に運ばれ、1時間22分後に再度心臓が動き始め、愛媛大学医学部付属病院での「低体温療法」による治療で、約1週間後に意識を取り戻していたというもの。大変驚かれたのではないでしょうか?

低体温療法

脳の温度を2〜3℃下げると、脳が要求する酸素量が激減
  ↓
低酸素の状態でも脳は生き続ける可能性を持つ
実は、シューマッハ氏やオシム氏などもこの「低体温療法」を行ったというのを耳にしますが、脳に限らず「冷却」に大きな可能性を感じずにはいられませんね。

通常、心臓や呼吸が停止して脳が低酸素状態にさらされた状態が数分間続けば、脳は回復不可能なダメージを負ってしまうというのが一般的な認識です。しかし、脳の温度を僅か2〜3℃下げると、脳が要求する酸素量が激減します。つまり、低酸素の状態でも脳は生き続ける可能性を持つのです。

ご紹介した生理的局所冷却(アイシング)も脳に限らず損傷した箇所を低温にすることで低酸素、低栄養状態にも耐えながら回復する時間的な猶予を与えられることになります。

さらに低体温療法は全身を低体温にして脳の温度を下げようとするものです。そのため免疫低下は避けられず、肺炎などの感染症が起こりやすくなります。それを防ぐ管理には様々な対策をチーム医療と大変な労力が必要になります。ご紹介した「局所」に限った冷却を行うことで、免疫低下を起こすことなく損傷した箇所を低温化することができます。

皆さんにお勧めする冷却は「局所」のみを冷却することがが一番の味噌です。氷を使ったアイシングには無限の可能性がありますので、たかが氷と馬鹿にせず、根気よく実行されることを切に願っております。

「痛み」について考えてみよう


セルフコンディショニングやセルフケアを考える時、対象はやはり「痛み」が多いのではないでしょうか?痛みを語るうえで痛い箇所を語る前にどうしても「脳」についても考えなくてはなりません。脳は痛みをもコントロールしているからです。また喜び・悲しみといった感覚的・感情的なものを感じ取っているのも脳であるといわれています。

不思議な現象ですが切断されてなくなってしまった場所にも痛みを感じることがあります(幻肢痛)。「痛み」や「脳」についてはまだまだ解明されない部分があまりに大きすぎて医療においても痛みを制圧するには至っていません。幻肢痛のように実際には存在しない部分に痛みを感じるわけですから、痛いからといって、その部位に関係する部分の神経やその他の組織に実際の障害があるとは必ずしも言えないのです。例えば恐怖などの感情やストレス、それらの記憶も痛みの増減に関わっていますし、単純に神経が圧迫されているだとかという今までの医学的な見解だけでは痛みを語ることは不可能です。

最近では腰痛の実に8割が原因不明で心理社会的因子(ストレスや様々な環境因子)が大きく影響していることが分かっています。レントゲンやMRIといったすぐれた検査機器の発達によっても腰痛は減るどころか年々増加していることを見れば、痛みについて考え直す必要があると言わざるを得ません。

つまり、痛みにたいしてはその部分にたいする処置だけではなく、考え方を変えるである事や、感覚、感情や自律神経などの司令塔である脳のストレスをなんとか軽くしたり、ストレスに対しての耐性をつけるなども当然ながら必要となってくることでしょう。

「脳」について少し知ってみよう


頭痛に限らずどの部位の痛みにおいても「脳」は非常に重要な役割をしていることはご理解いただけたと思います。脳は身体の大小にかかわらず、おおむね1.5kgほどの重量です。体重60kgとして僅か40分の1の重量です。そんな小さな脳がなんと全体の約4分の1ものエネルギーを通常使っているといわれています。さらなる活動時には全体の約半分近くのエネルギーを使うとさえ言われています。それだけ身体の中で熱エネルギーも溜まりやすく、オーバーヒートを起こしやすい部分ともいえますね。考えすぎると頭が熱く、ボーっとしてくるのはそのためです。

そして脳は半分以上が脂質で作られています。つまり「脂(あぶら)」で出来ています。脂は水に浮きますから脳は浮いて身体の一番上に位置しているのです。実際、脳は脳脊髄液という水の中に浮いていて、外からの衝撃や圧力を吸収できるようにもなっています。

もう一つ、水に浮いているのには重要な目的があります。前回の記事の中でもお話ししましたが、脂質もタンパク質も非常に熱に弱いものです。

先述のように脳は大きなエネルギー消費をして熱を溜めやすい場所でもありますので、温度が上がってしまえば多くを占める脂質は壊れてしまったり、それらで作られた組織は機能しなくなってしまい誤作動を起こすことも考えられます。それを防ぐための「熱冷まし」も水に浮かべている重要な目的でもあります。

暖かいポカポカとしているときより、少し寒い時の方が頭がキリッと働くといった経験もきっとあるのではないでしょうか?それは神経(脳は神経の塊でもあります)も同様です。寒い時には敏感に働きます。なので、寒い時にパチンと掌で背中を叩かれると大変痛いですが、暖かい時であればそれほどでもありません。

ちなみに、これは神経の伝達能力が温度によって変わっただけの問題であって、温めて痛みが緩和されたとしてもそこが本当に改善されたのとは何ら関係はないのです。単に神経が鈍くなっているだけと考えてください。

脳も関節同様、温度が上がりすぎると(オーバーヒート)誤作動を起こしたり、機能しなくなるのです。感覚を伝える機能に誤作動をおこして、痛みを増強させてしまう・・・そんなことも十分に考えられるわけです。そんなことが頻繁に起こっては困ります。なので私たちの身体には脳の機能を健全に保つようオーバーヒートを防ぐ大切な仕掛けがちゃんと隠されています。

「脳のオーバーヒート」を防ぐ仕掛け


車に置き換えて考えてみましょう。車の冷却システムには空冷と水冷がありますが、私たちの身体にもその両方が完備されています。特に熱の多い脳周辺には以下の凄い冷却システムが備わっています。

① 鼻呼吸による脳周辺の空冷システム
② 頸(くび)の後ろ側にある沢山の血管網による水冷システム




脳を入れている頭蓋骨をヘルメットのように切って取り外したとしましょう。脳は頭蓋底という非常に薄い骨の床に置かれていて、その薄い骨の床下を鼻腔(鼻呼吸の際に空気が通る空洞)が通っています。熱は温度の高い側から低い側に移動しますから、鼻腔に脳温よりも低い空気が流れると脳は冷却されることになります。これが脳の空冷システムです。

きっと鼻が詰まってボーっとして頭が回転しないなんて経験があるのではないでしょうか?鼻呼吸はそういった意味でも非常に大切なものです。




次に頸の後ろ側にある血管網を見てみます。驚くほど密に血管が走っています。頸に限ったことではありませんが、体内の血管は動脈(心臓から全身に送られる血管)と静脈(全身から心臓へ還る血管)が伴行といって同じ場所を隣り合わせに走っています。つまり互いに逆行する血液が熱交換をするわけです。これが水冷システムです。また表面近くの血管からの熱放散もありますし、少々のことでは脳がオーバーヒートを起こさないように仕組みがちゃんと装備されているわけです。

しかし、そのシステム能力を越える熱が加わったり、システムの故障があれば脳がオーバーヒートを起こしてしまうわけです。脳は自律神経などの最高中枢・司令塔ですから、脳のオーバーヒートは重篤な状態へも繋がってしまうわけです。極端な場合、熱中症など命を落としてしまうこともあるのです。毎年多くの方が救急搬送され沢山の方が亡くなることを考えると、脳を熱から守ることの必要性をいつも感じています。脳は熱と酸素不足を極端に嫌います。どちらとも、脳を冷ますことで熱から脳を守り酸素の要求量を減らすことで大きなダメージから回復する時間的な猶予を作ることが出来るのです。

「脳を冷ます」具体的な方法


ここで紹介する方法は、こんな場合に特にお勧めです。

・頭痛、発熱
・眼精疲労
・熱中症
・冷えのぼせ、身体のほてり
・二日酔い
・寝不足、不眠、集中力散漫
・夏の寝苦しさ、寝汗
・ストレスを感じている
・寝小便
・疲労回復(運動後のリカバリー含む)
・部位に関わらず痛み 等々




① 冷凍庫から出した氷を水洗いする。
② 氷嚢または氷枕に①を入れて空気を抜く
③ 後頭部から後頸部に当てる(30分〜ひと晩中)
④ 必要に応じて眼や頬骨付近を冷やす(眼精疲労など)

※眼を冷やす場合は堅く絞った濡れタオルを四つ折りにして眼の上に敷き、その上に氷嚢をのせる。ただし、15分程度にとどめる。


上記の方法は特に何らかの症状が無くても、日常的に行って頂きたいものです。夏の気温も温暖化により年々上昇するなど自然環境は悪化しているわけですから、私たちが本来持っている放熱能力の向上が求められるわけです。

しかし逆に冷暖房設備などの充実によって私たちの本来発揮すべき放熱能力はどんどん低下の一途を辿っているように感じられてなりません。頭頸部の冷却によってクーラーを使う頻度も減らすことが可能です。これは電気代節約のみならず、発汗などの放熱能力を衰えさせない生活の知恵だと思っています。

  • 中山 辰也(なかやま・たつや)
    中山予防医学研究所

  • MODEL: 好川 菜々(Nana Yoshikawa)
    生年月日 1978年6月25日
    出身地 大阪府
    血液型 AB型
    身長 164cm
    所属 雅ボクシングジム

    タイトル
    2005年 第3回全日本女子アマチュアボクシング選手権大会フライ級 準優勝
    2006年 第4回全日本女子アマチュアボクシング選手権大会フライ級 優勝
    2008年 第6回全日本女子アマチュアボクシング選手権大会ライトバンダム級 優勝(2階級制覇)
    2012年 第10回全日本女子アマチュアボクシング選手権大会フェザー級 優勝(3階級制覇)
    2012年 第7回AIBA世界女子ボクシング選手権フェザー級 ベスト16

    戦績
    アマチュア:77戦55勝、プロ:1戦1勝

フィットネス&ボディメイク情報誌
[ PHYSIQUE MAGAZINE 003 ]

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