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怪我をしたとき 「冷やす?」 or 「 温める?」 (2/3)

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掲載日:2015.06.05


冷却 vs 温熱


それでは冷やせばよいのか、温めれば良いのか?結論から言えば、基本的には「冷やす」です。しかし、温熱が適応する場面もありますので、そこを理解して頂ければケガのケアや予防、コンディショニング、慢性痛のケアまでもご自分で行って頂くことが可能です。

①急性、慢性に限らずケガや痛みに対して
冒頭でお話したような出血や痛みを最小限にとどめるといった目的だけではありません。温度を下げることにより新陳代謝をコントロールすることが大きな目的となります。

例えばケガをしたとします。ケガをした場所は、そのケガを治そうと代謝が非常に活発な状態となります。代謝が活発になれば、酸素や栄養分が通常よりもたくさん必要となります。しかし出血による腫れなどで血流障害が起これば、局所には通常よりも酸素や栄養分が行き届かないことになってしまいます。

もしも、その局所の温度を下げることが出来るとすれば、代謝を落とすことが可能となります。しかし、全身の代謝が落ちてしまえば免疫低下など身体にとってマイナスの一面を助長してしまうことになってしまいます。要するに、全身ではなく「局所」のみ代謝を低下させなければならないということです。しかも、局所のみを冷却することが出来れば周辺の温度が変わらないため、周辺組織の代謝を落とすことなく冷却することが可能です。

逆に、ケガした局所に外部より熱を加えると温度上昇により代謝がアップします。つまり、酸素・栄養分をたくさん必要とする状態になるわけです。そこで血流障害があるとさらに酸欠・栄養不足状態が続き、ケガの修復が遅くなる可能性が考えられます。外から熱を加えた際に皮膚表面が赤くなるのを「血流が良くなった」と捉えがちですが、外から入ってきた熱を早く外へ捨てる事が出来るように、表面付近の血管を広げて熱放散効率を上げているだけで、血流量の増加はほんの一時的なものでしかありません。結果として、代謝アップの酸欠・栄養不足状態をさらに助長することになりかねません。


湿布とカイロ
湿布は温冷に関わらず、温熱や冷却の効果は期待できない。また、局所にカイロを貼るなどはお勧めできない


但し、「湿性温熱法」を使えばケガの際においても悪影響を最小限に抑えることが出来るかもしれません。湿性温熱とは蒸しタオルなど湿気たもので温める方法です。ここで悪影響を与える可能性としてお話した温熱とは「乾性温熱」といって、いわゆる乾いたものでの温める方法です。例えばカイロなどで局所を長時間温めた時のことです。その極端な例が低温熱傷(低温やけど)です。それほど温度が高くなくても長時間に渡ればその影響は非常に大きなものとなります。

②コンディショニング(パフォーマンスアップ)
次にコンディショニングの為に行う場合ですが、こちらもやはり冷却が中心となります。スポーツにおいては疲労の蓄積と障害を防ぎ、万全の状態で日々のトレーニングを行えるかが、大きなポイントとなります。また、試合中においては筋肉、靭帯、関節などが最もパフォーマンスを発揮できる温度にしてあげることが大きな目的となります。コンタクトスポーツなど、相手との強い接触によって起こるケガはある意味「事故」なので防ぎようのないケースもあるとは思いますが、疲労蓄積による障害は日々のコンディショニングによって防ぐことが可能です。

疲労の蓄積による障害の極端な例を疲労骨折で説明します。これは金属疲労と同じ原理で起こります。同じ部位の骨に衝撃が加わり続けるような、激しい運動を繰り返し行い過ぎた場合に発症するものです。これにも実は「熱」が大きく関わっています。骨の同じ部位にかかる衝撃エネルギーは最後には熱エネルギーとなって局所に蓄積します。骨も先述したタンパク質から出来たコラーゲンから出来ています。よって、熱がその場所に集中して溜まっていけばコラーゲンは変性していき、ついには骨折に至るわけです。

疲労の蓄積はなにも骨だけではありません。筋肉や腱、靭帯、そして関節なども同じく繰り返しのための熱破壊を起こしていきます。それを防ぐ為に摩擦熱が溜まりやすい場所には「腱鞘(けんしょう)」という腱の通るトンネルを作り、そこには水が常に適量溜まっています。この水のおかげで腱が擦り切れていくのを防いでいるわけです。「膝の関節に水が溜まった」というお話をよく聞きますが、関節周辺に溜まった熱を冷まして関節を守るために、自ら水を溜めた自己防衛だと考えられます。これも冷却が非常に有効な例の一つです。

次に試合中のコンディショニングについてお話していきましょう。厳密には測りえませんが、筋肉や関節にも最高のパフォーマンスを発揮する最適な温度があります。しかし、難しいことに筋肉と関節では最適温度が異なります。筋肉は最適温度まで上がっていくとパフォーマンスが向上しますが、関節は温度が上昇すると逆になめらかさを失っていきます。

関節の中にはネバネバの水が入っていて、油と同様の性質を持っています。温度が下がるとネバネバになり、温度が上がるとサラサラになる性質をもっているのです。関節の水は熱を取る役割と同時に潤滑剤としても非常に優れた能力をもっているのです。

それでは、ネバネバ、サラサラどちらが潤滑剤として優れているのでしょう?答えは、「ネバネバ」。つまり温度がやや低い状態が潤滑剤として最高のパフォーマンスを発揮するわけです。しかし、激しい運動が長時間に及べば関節内温度も上昇していきます。

ここでもう一つ潤滑剤として能力を発揮する為に重要なのが「圧」です。バナナの皮を踏んで滑ってしまうことや、スキーが滑り出す原理と同じなのですが、圧力がそこに働かなくては潤滑しないのです。つまり、皮を踏んで体重がかかるから滑り、スキーも板と雪の間が溶け、そこに圧力がかかって初めて滑り始めるということです。


ダイナミックアイシング
氷のうを固定せず振動させながら行うことで筋温が下がりすぎず、かつリンパの流れも阻害せず行うことが出来る

<まとめ>
①運動前のウォームアップは筋肉内の血流量を増やして最適温度まで上げる。
②同時に関節に圧力をかけてなめらかに動くよう潤滑させる。(歩行、ジョグ、プッシュアップetc)
③運動中には上がりすぎた筋肉の温度をクーリングしてパフォーマンスを落とさないようにする。ただし冷やしすぎないようダイナミックアイシングetcを行う(後述)
④長時間に渡るトレーニングや試合において、関節部分に対して筋肉以上にしっかりと温度を下げるように努める。
⑤終了後には筋温を平常温度に素早く戻し、関節内を十分に冷却する。
これらの作業を怠らないように行えば、かなりの疲労蓄積による障害は予防できるはずです。

最後に一般的なコンディショニングにおいても冷却をうまく応用することができます。慢性的な痛みにも非常に有効なのです。ケガであってもケガでなくても、その局所が修復出来る環境を整えなくてはなりません。そう言った意味で、局所の代謝が高く、しかも酸欠・栄養不足という状況を避けたいわけです。そこでも局所のみを冷却して代謝を下げることで酸素と栄養の要求量が減り、局所の悪化を防ぐことができるわけです。


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  • 中山 辰也(なかやま・たつや)
    中山予防医学研究所

  • MODEL: 好川 菜々(Nana Yoshikawa)
    生年月日 1978年6月25日
    出身地 大阪府
    血液型 AB型
    身長 164cm
    所属 雅ボクシングジム

    タイトル
    2005年 第3回全日本女子アマチュアボクシング選手権大会フライ級 準優勝
    2006年 第4回全日本女子アマチュアボクシング選手権大会フライ級 優勝
    2008年 第6回全日本女子アマチュアボクシング選手権大会ライトバンダム級 優勝(2階級制覇)
    2012年 第10回全日本女子アマチュアボクシング選手権大会フェザー級 優勝(3階級制覇)
    2012年 第7回AIBA世界女子ボクシング選手権フェザー級 ベスト16

    戦績
    アマチュア:77戦55勝、プロ:1戦1勝

フィットネス&ボディメイク情報誌
[ PHYSIQUE MAGAZINE 001 ]

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