パーソナルトレーナーの新たなロールモデル / AFAAフルコンサルタント 古池 紀匡
ハーイ、こんにちは、モニカです。今回のフィジークな人は古池紀匡さんです。古池さんは、私がアメリカ留学から帰国した年にオープンして間もなくだったゴールドジムサウス東京で、パーソナルトレーナーをされていました。
私はスタジオでのレッスン、古池さんはジムでのパーソナル。当時接点はなく、それぞれの場所でお互いしゃかりきに頑張っていました。それから10年以上経ち、再会したのはAFAAのコンサルタントに古池さんがなられてからです。今年静岡県菊川市で開催されたフィットネスのイベントに私を呼んで下さいました。そこから意気投合し、いろんな話をしました。
一般的なパーソナルトレーナーの活動とは一部のスポーツ愛好家やアスリートだけにフォーカスしたものと思いがちです。古池さんの活動は、そんなパーソナルトレーナーのイメージを変えるというか、こんな姿もある、あんなこともできるというものを示してくれていると思います。
大都会でしかパーソナルトレーナーの可能性がないなんて大間違い!地方で活動されているパーソナルトレーナーの皆さんの活動のヒントになれば、と思い今回ご登場頂きました。
注)フィジークな人 : 造語、自己の人生を愛し、人生を楽しみ、セルフエスティームの高い人。フィッネスを通し、心と頭と身体を繋ぎ、自己の成長を喜びとしている人。
パーソナルトレーナーの新たなロールモデル
古池さんは一見すると職人さんです。自分のスキルに自信と誇りを持ち、黙々と仕事をするイメージでした。しかし、実際の活動を聞くと、その守備範囲の広さに驚かされました。
イベントの企画運営など地域活性化のための活動、行政との関わり合い、そして整体治療家としての活動、アスリートのサポートなどなど。すべては、古池さんの 「人のために何ができるか。地域のために何ができるか」という思いに基づいたブレない信念の表れだと感じています。そのブレない信念こそが、この連載のテーマである自尊心は周りに惑わされず、自分の揺るがない道を持っている芯のある人にふさわしいと思ったからです。
何事もコツコツと時間をかけて行ない、常に新しい情報を求めて学ぶ姿勢も怠らず、自分のスキルの幅を広げています。だからでしょう、スポーツ整体、美容バランス整体、ストレングスコーチ、パーソナル、チームトレーニング、グループフィットネスレッスン、ワークショップなど多様な顔を持っておられます。その多様な顔で地域の方々と結びつきを図られて成果を出し、信頼関係を築いてきたのです。
私が取材をお願いした際、古池さんの他の人との違いとか一番の売りは何ですかと聞きました。そうしたら逆に古池さんから「大都市では見られない、地方におけるパーソナルトレーナーとしての地域との結びつきを見てもらえませんか」と言われ、そうかなるほどと思いました。たしかに大都市では私が人と違うのはこれ、一番の売りはこれというものを打ち出さないと生き残れない。だが、地方では環境や人間関係などもあり、それがそのまま当てはまるのかというとそうではなく、地域にいかに貢献できるかが大切。そうしないと認めて人が振り向いてくれなかったと思います。
近年パーソナルトレーナーの資格を持つ人は増えてきています。がしかし、その資格を活かして活動している人は少ない、とAFAAの資格を出す側の一人として感じています。大手のスポーツクラブやジムには売れっ子のトレーナーの方がおられるので、そこへ新たに参入していくのが難しかったりします。資格を活かせず悩んでいる人が多くいるのではないでしょうか、とくに地方には。トレーナーはこういう仕事もできるというものを古池さんの例を通して感じていただきたい。パーソナルトレーナーの新たなロールモデルではないかと思います。
多くの引き出しを持つことが重要
いまご紹介いただきました、フィジカルトレーナーの古池紀匡です。私のお話しが皆さんに少しでもお役に立てれば幸いに存じます。
高校卒業後、トレーナーをめざして東京の体育専門学校へ進学。卒業後は縁あってスポーツサプリメントの老舗健康体力研究所に入社しました。いま思えば健体さんで働けたことが大きかった。そこでサプリメント摂取を含めた栄養アドバイス、トレーニング指導、さらにkentaiニュースやトレーニング本の制作、セミナーの企画催行などを行ない、フィットネス並びにスポーツ業界のサポートに従事させていただけたからです。こうした経験からゼロからでも人ってやる気になればなんでもできるんだ、ということ学ばせていただきました。
健体さんにお世話になって9年ぐらい経った頃でしょうか、仕事にやり甲斐は感じていましたが、指導の現場に戻ろうと退職を決意。でもすぐにクライアントさんがつくと思えなかったので、自分の方向性を見極めるため、あるクラブに所属しつつもっと自分のスキルを上げようとコンディショニングや整体などを学びました。独立したのは31歳でした。
独立するまでの10数年間、多くの引き出しをつくってきたことが後に大いに役立ちました。独立後、半年ぐらいは泣かず飛ばずでしたが、ゴールドジムさんと契約してからは少しずつお客様がつくようになり、お客様のいろいろなニーズに応えることができるようになるとどんどん仕事が舞い込んできた。大手のスポーツクラブさんからも声がかかるようになりましたし、企業向けのトレーニングワークショップも行なったりしました。
— パーソナルは月間80〜100件の依頼があったとお聞きしています。その安泰な環境をあえて飛び出して地元菊川へ戻って来られましたよね。
そうですね、安定性を求めればそのままで充分でした。でも、刺激を与えて自分をもっと高めたい、新たなことにチャレンジしたいという気持ちが強くなっていた時期でしたし、合わせてプライベートなことも重なったため故郷に戻りました。
当初はまずスポーツ整体から入っていき、ゆくゆくはどこかでパーソナルトレーナーの仕事もしていければという考えでした。ところが地元のスポーツクラブやジムにはパーソナルトレーナーというシステムはまだなく、トレーナー自体のスキルも低かったのでパーソナルトレーナーというものを浸透させていくには時間がかかると思いました。そこでメインは整体にして、要望があればパーソナルもやっていこうと。
最初は近くの商店街を回ってチラシを配ったりして宣伝に努めました。わりとスポーツ整体というのは目新しかったようで、当たりはよかったですね。それまではコンディショニングはトレーナー、整体は治療院と分かれてつながりはなかった。その両方を一度に診ることができたのは、当時この周辺では私だけだったと思います。
その中からパーソナルを受けたいという人も出てきて、ある年配の女性がとても顔の広い方で、その方から当時低迷していた、地元では有名なプロゴルファーの河瀬賢史さんをみてもらえないかと依頼されたことも大きかった。河瀬さんの低迷脱出のお手伝いや治療の成果を出すことによってお客様も増えていきました。
現在は古池整体治療院「フット・コンディショニング」という名称で、子どもからお年寄りまで幅広い年齢層の方の健康維持・増進、アスリートのパフォーマンスアップやコンディショニングなどのサポートをさせていただいております。
取材日、JGTOツアープレイヤー榛葉光輝さん(ミオス菊川カントリークラブ・28歳)がパーソナルを受けていた。約1年前から指導を受けており、取材前日に静岡県大会があり初のトップ10入り(7位)。「以前はスコアに波があり、ショットが曲がることが多かった。しかし最近はスコアもショットも安定。目の訓練で気持ちが、筋トレで下半身がそれぞれ安定してきたからだと思います」
理想的なジムの姿はセミパーソナルだった
— とても順調に来たように思いますが、そうだったのでしょうか。
いえいえ、未来を見据えて準備や布石を打っていたつもりでしたが思うようにいかないこともあり、不安がよぎって戻ってきたことを一度後悔したことも。
東京にいるトレーナーさんたちはいろんなことを勉強してドンドン前に行っているのではないか、時代の流れに自分は取り残されているのではないかという不安が常につきまとっている。だから東京とのつながりは絶対になくさないように努めており、可能な限りセミナーや健体さんに顔を出して情報収集することを心がけています。
— 本当にフットワークが軽く、好奇心旺盛ですよね。
ようは心配性。たとえ結果が出せたとしても、もっと近い道があったのではないか、違うやり方があったのではないかと。学ぶ姿勢を持ち続けることでモチベーションを高くしておかないと落ち着かないし、さまざまなニーズに対応できるように準備をしておかなければと常々思っています。
いろいろな理論やメソッドが出てきていますが、まず肯定的に受けとめて理解したら、それがお客様のなにに役立つのかを見極めたうえで取捨選択しています。
地方ではコンディションニング、ストレングスというスペシャリストよりも、あらゆる知識を身につけて実践できるオールラウンダーのような人が求められていると思います。
— 備えあれば憂いなしですね。そしてこの9月には新たな試みとして少人数制ボディワークジム クール・フェーズをオープンされましたが、構想は前からあったのでしょうか。
いえ、周りにスポーツクラブやジムがあるので、そこでパーソナルができればいいという考えでしたからジムをつくる予定はありませんでした。しかし、ジムに通っている人に聞くと、体を変えたいのに思うように結果が出ないという声が多かった。
自分のトレーニングでジムへ行っても器具を正しく使っている人は1割ぐらい。そうした現実を見てこれではいけない。正しいトレーニングが普及していかないし、せっかくトレーニングに興味を持ってくれたのに離れてしまう。なんとかしなければという思いが強くなってきました。
私一人の力は微力であっても、体を変えたいという人のための手助けはしようと思い直し、ジムをつくることを決意しました。ジムの形態は完全パーソナルのマンツーマンか、多くの人数が見られるフィットネスジムにしようか悩んだ結果、できる限りの人数を見ながらもパーソナルに近づけたいと思い、そうだ、セミパーソナルジムがいいんじゃないか、その中でマンツーマンがあってもいい。このような形態のジムは周囲にはないので、スポーツクラブやフィットネスジムもそんなに打撃を受けず、共存できると思いました。
平屋の一軒家を借りて部屋を三つに区切り、両側の部屋にはフリーウエイト、ダンベルを置き、真ん中の部屋には器具は置かずマットを敷いてストレッチができるようしました。人数は5〜7名を1グループとして個々に合わせたトレーニングや食事のオリジナルプログラムをつくり、効率的な体づくりを行なっています。このセミパーソナルジムというのは、まさに私が思い描いていた理想のジムの姿だったと思います。
静岡県初のフィットネスイベント開催
地元に帰ってきた時から地域にフィットネスを普及発展させたい、そのためのイベントを開こうという構想は持っていた。この地域のインストラクターの方々を集めてやろうとしたのですが、実情をみてとても人を呼べるほどのレベルでないと感じて長い間ペンディングの状態にありました。
しかし、昨年AFAAのコンサルタントになることができたことにより新しい人脈の道筋ができた。その年のAFAA事務局の懇親会の席上、事務局の方に長年温めてきたイベントの構想を話して協力をお願いしました。すると佐賀県武雄市でも同じことをやるということが分かり、その流れで菊川も行なえるかも知れませんと言われました。
よし、行けるぞと思い、早速行政側に趣旨を話して掛け合ったら、地元のスポーツクラブと一緒にやってほしいと。クラブ側と話し合ったものの結局うまくまとまらず、一度は断念。でも諦めたら悔しさだけが残る、健体で学んだ人ってやる気になればなんでもできる、その初心に帰ろう。今年になってすべて私がコーディネイトするから場所だけ確保してもらいたい、と再度行政側にお願いして了承を得ることができました。
実施にあたり優秀な講師の方々に来ていただき、本物に触れさせないと意味がない。AFAA事務局に協力をお願いしてズンバ、キックボクシング、太極拳、ピラティス、ダンス、ヨガの6種目に講師を派遣していただくことができた。除村さんにはキックと太極拳を担当してもらいましたね。プロモーションは自分でチラシをつくって配りました。「AFAAコラボin菊川」と銘打ち、静岡県初のフィットネスイベントは、6月21、22日の2日間菊川市堀之内体育館で開催することができました。
— 参加者皆さんの目が輝いていて、指導する側もやる気が出ましたし楽しかったです。
ほんとうにAFAAさんの協力がなければあそこまで充実できなかった。予想を上回る150名以上の参加者があり、子どもから中高年まで楽しく体を動かす光景は、主催者冥利に尽きる。地域のインストラクターの方も参加されたので、今後の指導に活かされることを願っています。多くの方々から「またやってほしい」「今度はいつやるんだ」という声が寄せられ、来年もぜひ行ないたいと考えています。少しずつ応援者も増えてきているように感じています。
今後学校体育授業の改革にも取り組もうと考えています。ある中学校の校長先生から体育授業の方向性を変えたいというお話をいただいているからです。
以前、中学校の体育の先生がコンディションニングの指導を受けに来たことがあり、本来は自分のことなのに私に学んだことを体育授業に取り入れて生徒さんたちと一緒に行なったことで、生徒さんたちの体育の成績が上がったといいます。その学校にちょうど校長先生がおられ、新しい形として地元のトレーナーと組んだものあってもいい、いずれ実践してみたいと考えていたそうです。その活動を通して学校体育で運動嫌いになる子を一人でも少なくしていきたいと思っています。
あと学校といえば部活動。部の練習とトレーニングは別々にやりがちですが、やり方次第では一緒にできる。たとえば野球部でノックのとき、後ろで待っている人は待ち時間にスクワットをやればいい。そうしたことも教えていきたいと思っています。
お客様の求めていた結果が出せたときの、喜ぶ姿が嬉しいし、達成感を覚えるし、活力になります。それを味わいたいからこの仕事をやっているのだとつくづく実感しています。
心強い存在
いかがでしたか、古池さんのお話しは。地方にいたからこそどうやってフィットネスを知ってもらい、普及させていくかに腐心されてきたことがお分かりいただけたかと思います。フィットネス業界に身を置く一人として古池さんのような存在は心強く思いました。
10年、20年後を見据えてこうして地方でフィットネスを耕している古池さんのような方を一人でも増やして次世代を育成することが、我々の務めではないかと考えています。それが我々を育ててくれたフィットネス業界への恩返しになるからです。AFAAも私も全国津々浦々にフィットネスを広めていくことには協力を惜しみません。
興味のある方はぜひ、古池さんのボディワークジム クール・フェーズに訪ねてみてください。新しいプライベートジムの形が見られますよ!
[ PHYSIQUE MAGAZINE 004 ]