意外に知らないベンチプレスの基本的なトレーニング方法(2/2)
掲載日:2015.11.25
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まず、ベンチプレスを行う際のフォームですが、しっかりと肩甲骨を寄せ、腰にアーチを作った『パワーフォーム』で行います。(写真1)ベンチ台に付いているのは頭〜両肩にかけての部分と尻だけとなります。
このパワーフォームの利点として以下の二点があげられます。
『肩甲骨を寄せることで、拳上時の肩の関与を減らすことができ、肩の怪我を激減させることができる』
『普段よりも高重量を扱うことができ、結果的に強度の高い卜レ一ニングが行える』
ベンチプレスの試合を見たことのある人の中には、パワーフォームを見て「あんなフォームが組めれば何十キロも拳上重量が挙がる」と思っている人もいるかもしれません。
しかし、実際のところは想像されるほど拳上重量が増えるわけではありません。足を床に付けた状態のボディビル的なフォームと比べて、大体2.5kg〜5kg程度、腰周りの柔軟性に優れた高いアーチが作れる人でも、7.5kg〜10kg程度、完壁とも言える児玉選手のパワーフォームでさえ、挙上重量は10kgしか増えないのです。(写真2)
意外に正しいバーの握り方を知らない人は多いのではないでしょうか。間違った握り方で最も多いのが、バーと手のひらがまっすぐになるような握り方です。この握り方は拳上時に手首が反ることが多くなり、手首を怪我する可能性が高くなります。
正しくは手首の延長線上にあたる部分にバーを乗せるような握り方となります。これにより手首が若干斜めを向くことになるのですが、手首が反ることが少なくなり、手首を怪我する可能性を減らすことができます。(写真3)
また、サムレスグリップでバーを握っている人も中にはいますが、手を滑らせたときの危険性を考えれば、サムアラウンドで握るべきです。
バーを勢いよく胸まで下ろし、胸でバウンドさせて挙げている人がいますが、この拳上方法だと胸から押し挙げる最も重要な部分で、サポートをつけたような状態となってしまいます。基本的には胸でバウンドさせず、バーが胸に触れたら挙げるようにします。
また、ネガティブを意識してゆっくり下ろして胸に効かせようとしている人もいますが、ベンチプレスを強くしたいのであれば、ネガティブを意識したり、筋肉に対する効きを意識する必要はありません。最も重量が挙がるようにバーを胸まで下ろし、挙げるのが基本です。
そしてこれが一番重要なことになりますが、拳上の途中で絶対に尻をベンチ台から浮かしません。
「胸でバウンドさせない」、「ネガティブを意識しない」、そして「絶対にベンチ台から尻を浮かさない」。とれがベンチプレスを強くするための、ストリクトなベンチプレスの拳上方法になります。
■ 重量と回数
トレーニングを行う際に、まずはセット重量と回数を決める必要があります。
基本的には筋力・筋量の両方のアップが望める重量である6RM〜8RMの範囲で重量を設定し、『○回狙いのセッ卜』という型でセッ卜を組みます。
例えば、8RM=100kgの人が8回狙いでセットを組む場合、100kgより少し重い102.5kg〜105 kgの範囲で重量を選択し、その重量で8回挙げるつもりでセットを組みます。(パワーリフターやベンチプレッサーの間では、8回狙いのセットを行っている人が多い)
なお、常に限界に近い重量を扱い続けるとフォームが乱れたり、疲労の蓄積によりオーバートレーニングになり、記録が伸びなくなるどころか、反対に記録が落ちてしまうこともあります。このため、意図的に重量を落として一定期間卜レーニングを行い、少しずつ重量を上げて改めてセットベス卜更新を狙うことが多くなっています。
このような意図的に重量を落とす方法は継続して記録を伸ばすために非常に有効で、初心者・中級者・上級者、どのような人でも積極的に取り入れる必要があります。
■ セット数
セット数は多ければ多いほど良いと思い、ひたすらにセットを重ねている人がいるかもしれません。しかし、ベンチプレスが強くなりたいのであれば、ただなんとなくセッ卜をこなすのではなく、すべてのセットで自己ベストを出すなどの目的を持って卜レーニングを行うこととなり、そうなればそれほど多くのセットを行うことはできない、行う必要がなくなってきます。
基本的には6RM〜8RMの重量でセットを組む場合は2〜3セッ卜、多くても5セッ卜ほどでセットを組むことになります。
■ インターバル
一般的なトレーニングではセッ卜ごとのインターバルは1分半から3分ぐらいが通常でしょう。当然、そのようなインターバルで同重量でセットを組む場合、1セット目が7回、2セット目が5回、3セット目が3回といったように、挙がる回数が極端に減ってしまいます。
といった方法は筋肉に効かすことを目的とした卜レ一ニングとしては正しいのかもしませんが、挙上方法で述べたように、ベンチプレスを強くするトレーニングでは筋肉に対する効きを意識する必要はそれほどありません。
筋肉に効かすことよりも、毎セットごとに「全力を出す」ことに重点を置いているため、インターバルは基本的に前のセッ卜の疲れが抜けるまで取るようにします。目安としては7分〜15分程度、最低でも5分はインターバルを取るようにします。
■ ウォーミングアップ
ウォーミングアップはメインとなるセットで全力を出せるのであれば、どんな方法でもかまいません。基本的にはMAX重量(1回の自己ベスト重量=1RM)の50%以下からはじめ、少しずつ重量を上げて最終的に2〜5セットほど行います。
MAX重量=100kgであれば、40〜50kg × 6〜10回 × 1〜2セット、60kg × 3〜6回 × 1〜2セット、70kg × 2〜4回 × 1セット。
大体このような感じでしょうか。
ほとんどの人がこのようなウォーミングアップで十分だとは思いますが、これだけのウォーミングアップだと「1回目が重く感じる」、「1セット目より2セット目の方が力が入る」という人も中には出てくるはずです。
このような場合、単純にウォーミングアップのセット数や回数を増やせばいいのですが、それ以外にもメインセット前にMAX重量の90〜95%の重量を持ってからメインセットを行う方法もあります。
メインセットよりも重い重量をウォーミングアップで扱うことで、より挙げやすい状態を作る。これによりほとんどの人がメインセッ卜の「1回目が重く感じる」ことや、「2セット目の方が力が入る」ということを改善できるようになります。
トレーニングの頻度は、基本的には週に2回〜3回程度。中1日や中2日、中3日でベンチプレスを行います。
ただし、これは全身のトレーニングをベンチプレスと同様に行っている場合の話で、ベンチプレスしか行わない人や、ベンチプレスが特に強くなりたい人の場合は話が変わってきます。
トップクラスのベンチプレスの選手の中には、週に4回以上ベンチプレスを行う人もいますし、200kg以上を軽く押し挙げる海外のディスエイブルの選手の多くは、週に5回以上のトレーニングを行っています。
「使用重量が重くなると週に1度のトレーニングでなければ回復が間に合わなくなる」こういったことを言う人もいるようですが、高重量を扱う=低頻度で良いとは一概に言えません。回復が間に合うかどうかは、個々人の持つ回復力の差、卜レ一ニング内容によります。
ボディビル的な効きを意識した筋肉を追い込むトレーニングを行うのであれば、週に2回のベンチプレスが限界かもしれません。しかし、ベンチプレスを強くするためのトレーニングを行うのであれば、週に2〜3回のベンチプレスにこだわる必要はありません。
それでは具体例をあげてセッ卜の組み方を紹介します。
MAX重量=120kg
8RM=100kg
このような人が8回狙い×3セッ卜というセットを組んだ場合の具体的なトレー二ング内容が表1となります。
まず、ウォーミングアップ(一例として)は50〜60kg×6〜10 回×1〜2セット、70〜80kg×3〜6回×1〜2セット、90kg×2〜4回、体を温めつつ疲れないように行います。(最後の90kgのセットが必要ない人は行わない)メインセットの1回目、1セット目の挙がリが悪く感じる人は110〜115kg×1回をメインセット前に持つようにします。
次に、メインセッ卜である8回狙い×3セットを行いますが、重量は8RM(100kg)よりも重い102.5kgを選択します。
表1では、1セット目が7回、インターバル7分後の2セッ卜目が6回、同じくインターバル7分後の3セット目が5回挙がっています。このような場合であれば、次回も102.5kgでセットを組み、どのセッ卜も8回を目標にして今よりも回数を増やせるようにします。
重量を上げる目安は、「1セット目が8回挙がれば重量を上げる」、「3セット8回挙がれば重量を上げる」といったように、あらかじめ決めておき、成功した場合に次回のトレー二ングから2.5kg〜5kg重量を増やします。
原則として、重量を増やす目安を「2セット以上○回挙がれば重量を上げる」とする場合、1セット目が○回以上挙がりそうでも○回で抑え、残りのセットで○回こなせるように余力を残すようにします。
そして、これが重要となってくるのですが、目標とする回数が挙がらないからといって、補助の人に引っ張ってもらい無理やり挙げるということは絶対に行いません。(フォース卜・レップスを行わない)
■ 自分の現在の実力を知る
トレー二ングを行ううえで最も重要なのが、自分自身の実力を知ることです。この自分自身の実力を知るということには2つの意味があり、1つは単純に「現在の自分が何kgで何回挙がるか?」ということを知ることになります。
これがわからないと、セッ卜を組む際に適切な重量設定が行えません。15回挙がる重量で8回でセットを組んでも仕方がありませんし4回しか挙がらない重量で8回狙いのセットを組むのも無理があります。重量設定が適切でなければ、トレーニングによって得られる効果も限られてしまいます。
もう1つの意味が、「現在の自分の体がどれだけの重量を挙げる可能性を持っているか?」ということを知ること、つまり自身の持つ地力を知ることです。
自身の地力がわかっていない例をあげるとすると、低回数ばかりでセッ卜を組んでいる初心者が一番分かりやすいでしょうか。
ベンチプレスをはじめたばかりの初心者の場合、言ってみればどんなトレー二ングをしても記録は伸びてきます。当然ながら、これは地力が上がったから記録が伸びたのではなく、ベンチプレスに慣れて力の入れ方が分かってきたこと、自身の持つ力を引き出せたことによります。
しかし、力を引き出し切ってしまった後は筋量を増やし、地力を上げないと記録は伸びてきません。そのことに気づかず筋量を増やすトレーニングを行わず、力を引き出すための1RM〜5RMといった低回数のトレーニングばかりを行っている初心者を多く見かけます。
地力を上げるのであれば、最低でも6RM、初心者であれば10RMでセットを組んでもいいぐらいです。この、自身の地力を知るということは、初心者だけでなく上級者にとっても、非常に難しいことだと思います。重量にこだわってしまい、知らないうちに地力を上げる卜レーニングを怠ってしまっている人も多いのではないでしょうか。
■ 計画的に目標を立ててトレーニングを行う
気分やその時の調子によって卜レーニングメニューが毎回違うような人がいますが、強くなりたいのであれば、「○週間は必ずこのトレーニングメニューを行う」というように、トレーニングメニューとそれを行う期間を、あらかじめ決めておく必要があります。
期間としては4週間から長くて10週間、記録の伸びが持続しているのであれば、1〜2週間ほど同じメニューでトレーニングを行います。
また、これが非常に重要になってくるのですが、ただなんとなく同じメニューの卜レーニングを行うのではなく、常にトレーニングでの目標を立てながらトレーニングを行います。 例えば、ある人が120kg × 7回狙い × 3セッ卜、3セット7回挙がれば重量を上げるという内容でトレーニングを行い、1週目が6回、6回、5回だったとします。
このような場合、次の週にすべてのセットで7回挙げるのは難しいので、まずは1セッ卜でもいいので7回挙げることを目標にします。
何週間かかるかはわかりませんが、それができるようになれば今度は2セット7回挙げることを目標にし、それができたら3セットとも挙げることを目標にします。そして3セットとも7回挙がれば重量を上げ、同様に目標を立てながら卜レーニングを続けていきます。
100kgしか挙がらない人が「150kgを挙げる」といったような、いつ達成できるかもわからない大きな目標を立てたとすれば、毎回のトレーニングに対するモチベーションを維持することは難しくなってきます。
反対に、小さな目標を立ててそれを少しずつ達成するようにすれば、高いモチベーションを維持しながらトレー二ングが行えるようになります。
■ 無駄な追い込みをしない
恐らくこの部分がベンチプレスを強くするためのトレー二ングで、最も重要になってきます。
フィットネスクラブなどで行われている代表的な「無駄な追い込み」のトレーニングが、フォース卜・レップスでしょう。フォース卜・レップスは自身の力で挙がらなくなってから、補助者にサポー卜してもらって繰り返し挙げるため、確かにトレーニングを頑張った気にはなれます。しかし、補助者によってトレーニングの強度は変わってきますし、何よりも自身の力で挙げることを体が忘れてしまいます。
よくフォース卜・レップスを行っている人は、「補助についてもらって○回挙げた」といったような言い方をしますが、ベンチプレスのトレーニングではあくまで自身だけで挙げた回数だけを数えるため、「補助についてもらって○回挙げた」という言葉は存在しません。
また、フォース卜・レップスとまでいかなくても、限界がきて挙がらなくなくなり、補助に軽く引いてもらいジワジワと挙げている人もいますが、これもそれほど必要ありません。 例えば、8回狙いのセットで7回目がぎりぎり挙がり、「8回目は挙がらないだろう」と思った場合は7回でバーをラックに戻し、潰れるようなことがないようにします。
また、「8回目が挙がると思って挑戦したが挙がらなかった」という場合は、軽く補助についてもらうのではなく、次のセッ卜に疲れが残らないようすぐに引き上げてもらいます。フォース卜・レップスと並ぶ「無駄な追い込み」の卜レーニングとなるのが、トレーニングの最後に行う重量を下げてのトレーニングです。
例えば、100kgで8回狙い×3セットといったセットを組んでいる人がいたとします。この人が100kgで、3セット終えた後に、「筋肉を追い込みたい」という理由で重量を80kgに落とし、さらに2セット行ったとします。80kgのセットを追加することで筋肉は張るでしょうし、筋肉を追い込んだという気にはなれるでしょう。
しかし、100kgでセットを組めるような人が80kgという低重量でセットを組んだとしても、それはただ単に筋肉を張らす卜レーニングになってしまい、ベンチプレスが強くなることにはほとんどつながらず、「トレーニングを頑張った」という自己満足にしかならないのです。
フォース卜・レップスなどの追い込みの卜レーニングを日常的に行っている人であれば、「それだと筋肉痛にならないんじゃないか?」 と思うかもしれませんが、「筋肉痛になる=強くなる」ということではありません。
これは極論かもしれませんが、メインとなるセットでしっかりと自身の力を出すことができれば、追い込む卜レ一二ングそのものが必要ないのかもしません。
ここでは、ベンチプレスの基本的なトレーニング方法を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?インターバルの長さや、追い込まないという点を除けば、なんら一般の卜レーニングと変わらないことに気づくはずです。
特にベンチプレスのトレーニングに慣れてきて、様々なトレーニングを試しているような人であれば退屈な内容に感じるでしょうし、下積みのような印象を受けるかもしれません。 しかし、こういった下積みのようなトレーニングを行うことが、ベンチプレスを強くするために最も必要となってきます。
なお、ここで紹介した基本的な卜レーング方法は、フォームや力の出し方などをある程度マスターした中級者以上の人を対象としており、完全に初心者の段階や、体を作る段階ではその内容は変わってきます。
ベンチプレスのフォーム
[写真1](上)
肩甲骨の寄せと上半身のブリッジを作ったパワーフォーム
[写真2](下)
完壁とも言える児玉選手のパワーフォーム
まず、ベンチプレスを行う際のフォームですが、しっかりと肩甲骨を寄せ、腰にアーチを作った『パワーフォーム』で行います。(写真1)ベンチ台に付いているのは頭〜両肩にかけての部分と尻だけとなります。
このパワーフォームの利点として以下の二点があげられます。
『肩甲骨を寄せることで、拳上時の肩の関与を減らすことができ、肩の怪我を激減させることができる』
『普段よりも高重量を扱うことができ、結果的に強度の高い卜レ一ニングが行える』
ベンチプレスの試合を見たことのある人の中には、パワーフォームを見て「あんなフォームが組めれば何十キロも拳上重量が挙がる」と思っている人もいるかもしれません。
しかし、実際のところは想像されるほど拳上重量が増えるわけではありません。足を床に付けた状態のボディビル的なフォームと比べて、大体2.5kg〜5kg程度、腰周りの柔軟性に優れた高いアーチが作れる人でも、7.5kg〜10kg程度、完壁とも言える児玉選手のパワーフォームでさえ、挙上重量は10kgしか増えないのです。(写真2)
グリップ
[写真3]正しいバーの握り方は、手首の延長線上にあたる手のひらの部分にバーを乗せて握る。
意外に正しいバーの握り方を知らない人は多いのではないでしょうか。間違った握り方で最も多いのが、バーと手のひらがまっすぐになるような握り方です。この握り方は拳上時に手首が反ることが多くなり、手首を怪我する可能性が高くなります。
正しくは手首の延長線上にあたる部分にバーを乗せるような握り方となります。これにより手首が若干斜めを向くことになるのですが、手首が反ることが少なくなり、手首を怪我する可能性を減らすことができます。(写真3)
また、サムレスグリップでバーを握っている人も中にはいますが、手を滑らせたときの危険性を考えれば、サムアラウンドで握るべきです。
拳上方法
バーを勢いよく胸まで下ろし、胸でバウンドさせて挙げている人がいますが、この拳上方法だと胸から押し挙げる最も重要な部分で、サポートをつけたような状態となってしまいます。基本的には胸でバウンドさせず、バーが胸に触れたら挙げるようにします。
また、ネガティブを意識してゆっくり下ろして胸に効かせようとしている人もいますが、ベンチプレスを強くしたいのであれば、ネガティブを意識したり、筋肉に対する効きを意識する必要はありません。最も重量が挙がるようにバーを胸まで下ろし、挙げるのが基本です。
そしてこれが一番重要なことになりますが、拳上の途中で絶対に尻をベンチ台から浮かしません。
「胸でバウンドさせない」、「ネガティブを意識しない」、そして「絶対にベンチ台から尻を浮かさない」。とれがベンチプレスを強くするための、ストリクトなベンチプレスの拳上方法になります。
セットの組み方
■ 重量と回数
トレーニングを行う際に、まずはセット重量と回数を決める必要があります。
基本的には筋力・筋量の両方のアップが望める重量である6RM〜8RMの範囲で重量を設定し、『○回狙いのセッ卜』という型でセッ卜を組みます。
例えば、8RM=100kgの人が8回狙いでセットを組む場合、100kgより少し重い102.5kg〜105 kgの範囲で重量を選択し、その重量で8回挙げるつもりでセットを組みます。(パワーリフターやベンチプレッサーの間では、8回狙いのセットを行っている人が多い)
なお、常に限界に近い重量を扱い続けるとフォームが乱れたり、疲労の蓄積によりオーバートレーニングになり、記録が伸びなくなるどころか、反対に記録が落ちてしまうこともあります。このため、意図的に重量を落として一定期間卜レーニングを行い、少しずつ重量を上げて改めてセットベス卜更新を狙うことが多くなっています。
このような意図的に重量を落とす方法は継続して記録を伸ばすために非常に有効で、初心者・中級者・上級者、どのような人でも積極的に取り入れる必要があります。
■ セット数
セット数は多ければ多いほど良いと思い、ひたすらにセットを重ねている人がいるかもしれません。しかし、ベンチプレスが強くなりたいのであれば、ただなんとなくセッ卜をこなすのではなく、すべてのセットで自己ベストを出すなどの目的を持って卜レーニングを行うこととなり、そうなればそれほど多くのセットを行うことはできない、行う必要がなくなってきます。
基本的には6RM〜8RMの重量でセットを組む場合は2〜3セッ卜、多くても5セッ卜ほどでセットを組むことになります。
■ インターバル
一般的なトレーニングではセッ卜ごとのインターバルは1分半から3分ぐらいが通常でしょう。当然、そのようなインターバルで同重量でセットを組む場合、1セット目が7回、2セット目が5回、3セット目が3回といったように、挙がる回数が極端に減ってしまいます。
といった方法は筋肉に効かすことを目的とした卜レ一ニングとしては正しいのかもしませんが、挙上方法で述べたように、ベンチプレスを強くするトレーニングでは筋肉に対する効きを意識する必要はそれほどありません。
筋肉に効かすことよりも、毎セットごとに「全力を出す」ことに重点を置いているため、インターバルは基本的に前のセッ卜の疲れが抜けるまで取るようにします。目安としては7分〜15分程度、最低でも5分はインターバルを取るようにします。
■ ウォーミングアップ
ウォーミングアップはメインとなるセットで全力を出せるのであれば、どんな方法でもかまいません。基本的にはMAX重量(1回の自己ベスト重量=1RM)の50%以下からはじめ、少しずつ重量を上げて最終的に2〜5セットほど行います。
MAX重量=100kgであれば、40〜50kg × 6〜10回 × 1〜2セット、60kg × 3〜6回 × 1〜2セット、70kg × 2〜4回 × 1セット。
大体このような感じでしょうか。
ほとんどの人がこのようなウォーミングアップで十分だとは思いますが、これだけのウォーミングアップだと「1回目が重く感じる」、「1セット目より2セット目の方が力が入る」という人も中には出てくるはずです。
このような場合、単純にウォーミングアップのセット数や回数を増やせばいいのですが、それ以外にもメインセット前にMAX重量の90〜95%の重量を持ってからメインセットを行う方法もあります。
メインセットよりも重い重量をウォーミングアップで扱うことで、より挙げやすい状態を作る。これによりほとんどの人がメインセッ卜の「1回目が重く感じる」ことや、「2セット目の方が力が入る」ということを改善できるようになります。
トレーニングの頻度
トレーニングの頻度は、基本的には週に2回〜3回程度。中1日や中2日、中3日でベンチプレスを行います。
ただし、これは全身のトレーニングをベンチプレスと同様に行っている場合の話で、ベンチプレスしか行わない人や、ベンチプレスが特に強くなりたい人の場合は話が変わってきます。
トップクラスのベンチプレスの選手の中には、週に4回以上ベンチプレスを行う人もいますし、200kg以上を軽く押し挙げる海外のディスエイブルの選手の多くは、週に5回以上のトレーニングを行っています。
「使用重量が重くなると週に1度のトレーニングでなければ回復が間に合わなくなる」こういったことを言う人もいるようですが、高重量を扱う=低頻度で良いとは一概に言えません。回復が間に合うかどうかは、個々人の持つ回復力の差、卜レ一ニング内容によります。
ボディビル的な効きを意識した筋肉を追い込むトレーニングを行うのであれば、週に2回のベンチプレスが限界かもしれません。しかし、ベンチプレスを強くするためのトレーニングを行うのであれば、週に2〜3回のベンチプレスにこだわる必要はありません。
実際のセットの組み方
それでは具体例をあげてセッ卜の組み方を紹介します。
MAX重量=120kg
8RM=100kg
このような人が8回狙い×3セッ卜というセットを組んだ場合の具体的なトレー二ング内容が表1となります。
[表1]実際のセットの組み方
まず、ウォーミングアップ(一例として)は50〜60kg×6〜10 回×1〜2セット、70〜80kg×3〜6回×1〜2セット、90kg×2〜4回、体を温めつつ疲れないように行います。(最後の90kgのセットが必要ない人は行わない)メインセットの1回目、1セット目の挙がリが悪く感じる人は110〜115kg×1回をメインセット前に持つようにします。
次に、メインセッ卜である8回狙い×3セットを行いますが、重量は8RM(100kg)よりも重い102.5kgを選択します。
表1では、1セット目が7回、インターバル7分後の2セッ卜目が6回、同じくインターバル7分後の3セット目が5回挙がっています。このような場合であれば、次回も102.5kgでセットを組み、どのセッ卜も8回を目標にして今よりも回数を増やせるようにします。
重量を上げる目安は、「1セット目が8回挙がれば重量を上げる」、「3セット8回挙がれば重量を上げる」といったように、あらかじめ決めておき、成功した場合に次回のトレー二ングから2.5kg〜5kg重量を増やします。
原則として、重量を増やす目安を「2セット以上○回挙がれば重量を上げる」とする場合、1セット目が○回以上挙がりそうでも○回で抑え、残りのセットで○回こなせるように余力を残すようにします。
そして、これが重要となってくるのですが、目標とする回数が挙がらないからといって、補助の人に引っ張ってもらい無理やり挙げるということは絶対に行いません。(フォース卜・レップスを行わない)
トレーニングを行ううえでの注意点
■ 自分の現在の実力を知る
トレー二ングを行ううえで最も重要なのが、自分自身の実力を知ることです。この自分自身の実力を知るということには2つの意味があり、1つは単純に「現在の自分が何kgで何回挙がるか?」ということを知ることになります。
これがわからないと、セッ卜を組む際に適切な重量設定が行えません。15回挙がる重量で8回でセットを組んでも仕方がありませんし4回しか挙がらない重量で8回狙いのセットを組むのも無理があります。重量設定が適切でなければ、トレーニングによって得られる効果も限られてしまいます。
もう1つの意味が、「現在の自分の体がどれだけの重量を挙げる可能性を持っているか?」ということを知ること、つまり自身の持つ地力を知ることです。
自身の地力がわかっていない例をあげるとすると、低回数ばかりでセッ卜を組んでいる初心者が一番分かりやすいでしょうか。
ベンチプレスをはじめたばかりの初心者の場合、言ってみればどんなトレー二ングをしても記録は伸びてきます。当然ながら、これは地力が上がったから記録が伸びたのではなく、ベンチプレスに慣れて力の入れ方が分かってきたこと、自身の持つ力を引き出せたことによります。
しかし、力を引き出し切ってしまった後は筋量を増やし、地力を上げないと記録は伸びてきません。そのことに気づかず筋量を増やすトレーニングを行わず、力を引き出すための1RM〜5RMといった低回数のトレーニングばかりを行っている初心者を多く見かけます。
地力を上げるのであれば、最低でも6RM、初心者であれば10RMでセットを組んでもいいぐらいです。この、自身の地力を知るということは、初心者だけでなく上級者にとっても、非常に難しいことだと思います。重量にこだわってしまい、知らないうちに地力を上げる卜レーニングを怠ってしまっている人も多いのではないでしょうか。
■ 計画的に目標を立ててトレーニングを行う
気分やその時の調子によって卜レーニングメニューが毎回違うような人がいますが、強くなりたいのであれば、「○週間は必ずこのトレーニングメニューを行う」というように、トレーニングメニューとそれを行う期間を、あらかじめ決めておく必要があります。
期間としては4週間から長くて10週間、記録の伸びが持続しているのであれば、1〜2週間ほど同じメニューでトレーニングを行います。
また、これが非常に重要になってくるのですが、ただなんとなく同じメニューの卜レーニングを行うのではなく、常にトレーニングでの目標を立てながらトレーニングを行います。 例えば、ある人が120kg × 7回狙い × 3セッ卜、3セット7回挙がれば重量を上げるという内容でトレーニングを行い、1週目が6回、6回、5回だったとします。
このような場合、次の週にすべてのセットで7回挙げるのは難しいので、まずは1セッ卜でもいいので7回挙げることを目標にします。
何週間かかるかはわかりませんが、それができるようになれば今度は2セット7回挙げることを目標にし、それができたら3セットとも挙げることを目標にします。そして3セットとも7回挙がれば重量を上げ、同様に目標を立てながら卜レーニングを続けていきます。
100kgしか挙がらない人が「150kgを挙げる」といったような、いつ達成できるかもわからない大きな目標を立てたとすれば、毎回のトレーニングに対するモチベーションを維持することは難しくなってきます。
反対に、小さな目標を立ててそれを少しずつ達成するようにすれば、高いモチベーションを維持しながらトレー二ングが行えるようになります。
■ 無駄な追い込みをしない
恐らくこの部分がベンチプレスを強くするためのトレー二ングで、最も重要になってきます。
フィットネスクラブなどで行われている代表的な「無駄な追い込み」のトレーニングが、フォース卜・レップスでしょう。フォース卜・レップスは自身の力で挙がらなくなってから、補助者にサポー卜してもらって繰り返し挙げるため、確かにトレーニングを頑張った気にはなれます。しかし、補助者によってトレーニングの強度は変わってきますし、何よりも自身の力で挙げることを体が忘れてしまいます。
よくフォース卜・レップスを行っている人は、「補助についてもらって○回挙げた」といったような言い方をしますが、ベンチプレスのトレーニングではあくまで自身だけで挙げた回数だけを数えるため、「補助についてもらって○回挙げた」という言葉は存在しません。
また、フォース卜・レップスとまでいかなくても、限界がきて挙がらなくなくなり、補助に軽く引いてもらいジワジワと挙げている人もいますが、これもそれほど必要ありません。 例えば、8回狙いのセットで7回目がぎりぎり挙がり、「8回目は挙がらないだろう」と思った場合は7回でバーをラックに戻し、潰れるようなことがないようにします。
また、「8回目が挙がると思って挑戦したが挙がらなかった」という場合は、軽く補助についてもらうのではなく、次のセッ卜に疲れが残らないようすぐに引き上げてもらいます。フォース卜・レップスと並ぶ「無駄な追い込み」の卜レーニングとなるのが、トレーニングの最後に行う重量を下げてのトレーニングです。
例えば、100kgで8回狙い×3セットといったセットを組んでいる人がいたとします。この人が100kgで、3セット終えた後に、「筋肉を追い込みたい」という理由で重量を80kgに落とし、さらに2セット行ったとします。80kgのセットを追加することで筋肉は張るでしょうし、筋肉を追い込んだという気にはなれるでしょう。
しかし、100kgでセットを組めるような人が80kgという低重量でセットを組んだとしても、それはただ単に筋肉を張らす卜レーニングになってしまい、ベンチプレスが強くなることにはほとんどつながらず、「トレーニングを頑張った」という自己満足にしかならないのです。
フォース卜・レップスなどの追い込みの卜レーニングを日常的に行っている人であれば、「それだと筋肉痛にならないんじゃないか?」 と思うかもしれませんが、「筋肉痛になる=強くなる」ということではありません。
これは極論かもしれませんが、メインとなるセットでしっかりと自身の力を出すことができれば、追い込む卜レ一二ングそのものが必要ないのかもしません。
ここでは、ベンチプレスの基本的なトレーニング方法を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?インターバルの長さや、追い込まないという点を除けば、なんら一般の卜レーニングと変わらないことに気づくはずです。
特にベンチプレスのトレーニングに慣れてきて、様々なトレーニングを試しているような人であれば退屈な内容に感じるでしょうし、下積みのような印象を受けるかもしれません。 しかし、こういった下積みのようなトレーニングを行うことが、ベンチプレスを強くするために最も必要となってきます。
なお、ここで紹介した基本的な卜レーング方法は、フォームや力の出し方などをある程度マスターした中級者以上の人を対象としており、完全に初心者の段階や、体を作る段階ではその内容は変わってきます。
[ ベンチプレス 基礎から実践 ベンチプレスが誰よりも強くなる(VOL.1) ]